『主体的・対話的で深い学び 問題解決学習入門』藤井千春著、学芸みらい、2018年 

 本書の著者である藤井千春先生は、私が所属する早稲田大学教師教育研究所の所長でもあります。ある意味、身内ですが、本書は、ぜひ若い先生に読んでいただきたいと考え、紹介することにしました。

 また、本書にはもう1点、特筆することがあります。奥付に企画者として名前があるのが樋口雅子さんです。教育書界のレジェンド編集者とも言える方で、80歳を越えられた今でも現役です。ここ1年の間に二度ほどお酒を一緒にする機会があり、いろいろと学ばせてもいただきました。

 そのお二人がタッグを組んだわけですから、紹介しないわけにはいきません。


ゲシュタルト・チェンジ


 本書のねらいは、新教育課程で求められる「主体的・対話的で深い学び」を問題解決学習の枠組みで捉え直すことです。

 そのためには、「子どもたちの学習活動を見る教師自身の眼のゲシュタルト・チェンジが不可欠です」と藤井先生は述べます。

 「ゲシュタルト・チェンジ」は初耳でした。例えばルビンの壺(見え方によって壺にも二人の顔にも見える絵)を見るときのように、子どもの学習活動を見る視点を変えていこうということだと思います。


 そのため、本書の第1章に問題解決学習のQ&Aがあります。

 私も感じているところですが、問題解決学習を誤解している教師が多くいます。「知識は教えないのか」などです。

 そういう誤解をQ&Aで、丁寧に解きほぐしていきます。そして読者は、このQ&Aを通してゲシュタルト・チェンジを行い、次章へと入るようになっています。


授業の哲学


 「はじめに」では「教師が哲学をもつことの必要性」が語られます。それは次の言葉に集約されるでしょう。


「『主体的・対話的で深い学び』とは何か」を考えることは、「生きるとは何か」を問うことです。

ですから、「『主体的・対話的で深い学び』とは何か」について考察している本書は、そのまま哲学を語っていることにもなります。

 第2章以降、「2 子どもたちの学ぶ力を育てる」、「3 学習活動を構想・実践する」、「4 教師としての『学び』と『成長』」と具体的に解説がされていきますが、その背景には、藤井先生の哲学が見えてきます。

 例えば、「学び」についても


「学び」とは、「学ぶ自分」についてのアイデンティティの確立、及び「世界」と豊に結びついて生きるという生活の仕方の再構成が遂げられる活動なのです。(p.66)

のように、「学び」を単なる知識を得ることではない、より深いものとしてとらえています。


 最近の教育書では、主に教育技術を解説、紹介したものが主流になってきています。本書も「入門」とあり、「聞いている子どもたちの聞き方を指導をする」や「授業観察の視点と方法」などの項目もあるので、ある意味では問題解決学習を実践する上での技術書とも言えるでしょう。

 ただ、私は、教育観、授業観、子ども観によって、同じ教育技術を使ったとしても授業が異なると感じています。

 本書で紹介されている教育技術もしっかりとした教育哲学に根ざしています。それが、教師としてのランクを上げることにもつながるでしょう。

 

 

編集者的Point 

 研究者による書籍となると、事例ではなく、理論のみを展開するケースが多くあります。しかし、本書に

は全部で19の事例が紹介されています。それ以外でも本文中で実践を通して解説しているところが随所に見られます。

 つまりは、研究のための書籍ではなく、現場の教師にとって役立つ書籍だといえます。