『教師の底力 -社会派教師が未来を拓く-』志水宏吉著、学事出版、2020年

 「教育格差」が注目されています。その議論の中には、教育格差を教員養成課程で必修にすべきだ、というものもありました。私もそれには賛成で、本書は、まさにそのテキストになりそうな書籍です。


 本書を貫くのは「社会派教師」という言葉です。

 これは著者の志水宏吉先生の造語で、「差別や不平等や格差といった社会問題に関心をもち、教育の力によってそれらを克服し、よりよい社会を築いていこうとする意志をもつ教師」と定義されています。

 ただ、おそらくですが、自分ではこうありたいと考えている教師は多いでしょう。しかし、そこまでいっていない、というのが実際だと思います。


本書での「社会派教師」の特徴として次の 6つが挙げられています。

 ① 尊敬できる師を持つこと

 ② 子どもが好きなこと

 ③ 学び続ける意欲があること

 ④ 公正原理を大事にすること

 ⑤ つながりの力を信じること

 ⑥ 社会を変える志向性を持つこと


 ①から③はすべての教員にとって必要な資質であり、④から⑥が「社会派教師」に独自な特徴だと言います。そして①から③は、その人にもともと備わっているものという側面が強いのに対して、④から⑥は、学習によって、後天的に獲得されていくものだとも言われます。


 本書では、こうした社会派教師になるために必要な知識や考え方、道筋、例えば、「公平」と「公正」の違いとは何か、「教育問題」はどう捉えられてきたのか、そして「教師としての成長」とは何かが、わかりやすく示されています。

 社会派教師になるということだけでなく、「教育問題」や「格差」の問題を理解するという点でも、有益な書籍だとも感じました。

 

編集者的Point 

 志水宏吉先生の書籍は、どの本でも先生の経験を語られることが多くあります。それは、本書でも次のように述べられたような志水先生なりのねらいがあります。


すなわち、「教育」はすぐれて個人的な事象であり、理屈だけを抽象的に論じていたのでは全く面白くないと。言い換えるなら、私的な体験を立脚点にしない教育に関する書き物は、空虚で、大きな力は持たないと思うのである。文章には、書き手の人柄や個性がにじんでいなければならない。教育に関するものはなおさらそうだと感じる。

 それが、本書でも抽象論ではないリアルな情景として現れてきます。

 例えば、「公正と卓越性」について、小学校のサッカーチームのコーチをしていた経験をもとに語られています。私も中学高校時代には部活とは別に小学生のチームのコーチをしていました。そうした経験を通してみると、本書で語られていることがよくわかります。

 余談ですが、志水先生と本郷の居酒屋を訪れたとき、ちょうどサッカーの日本代表戦が中継されていました。先生とテレビの前に陣取って、観戦しながらお酒を楽しく飲んだ思い出があります。


 実は、本書は、編集をお手伝いさせていただき、奥付にも名前を入れていただきました。そうしたところからも思い入れのある本です。