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感覚を磨くメソッド1

 2006年6月に東洋館出版から出版された山下さんとの共著には、当時東京大学教育学部教授の佐藤一子さんの推薦文「五感力は生涯学習の基礎・基本」という言葉が帯に書かれています。五感力の育成は学校教育に限定されるものではなく、生涯学習として位置付けることが望ましいのです。執筆時からもう15年以上過ぎたこともあり、残念ながらこの本は現在絶版になっているためお読みいただくことが難しいです。
 そこで私が執筆した個所の要約を掲載することにより、どのように五感力を活用できるかヒントが提供できればと思います。

自然のフィールドトリップ

「五感」を拓く-学校・家庭・地域の現場から-

 「五感」を生かした教育は、学校でも家庭でも地域でもなにげなく行われてきたことだと思います。日々の営みの中で、教師も親も地域の指導者も「五感」ということを意識するかしないかは別にして、子どもたちを教育してきたのではないでしょうか。

 私の「五感」を生かした実践を振り返ってみます。

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●五感で地域を探る

 1981年、教師になった私は3年生を担任しました。社会科の学習は地域学習です。学校がある東京都港区の地域を学びますが、私学の子どもたちはいろいろなところから通学しています。ですから、学校があるところと自分が住んでいるところを常に比べるという手法をとりました。その時に子どもたちに与えた視点が「五感」を生かすということでした。

 地域を探るときに、自分の目、耳、鼻、口、手と足を使うことを強調したものです。夏休みには、どこでもいいから自分が歩いた地域を探る課題を出しました。子どもたちはそれぞれ調べたことをレポートにして提出しました。ある子どものレポートを紹介します(ほんの一部の抜粋です)。「五感」すべてを書き込んだレポートではありませんが、地域をいろいろな感覚で調べていることがわかるレポートです。

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●五感で環境を探る

 私が勤務する学校で、5・6年生は山梨県の清里を中心にして校外学習を行っています。2日間の環境教育プログラムではキープ協会環境教育事業部のレンジャーの方々に指導していただいています。

 5・6年生の最近のプログラムは以下のようです。

【5年生】

 道草ハイキング 清里の森・草原・生き物と親しむ。

 バターづくり  牛乳からバターをつくり、味わう。

 自然体験プログラム 自然に親しむ視点を知り、味わう。

 ア・ピース・オブ・フォレスト 小さな鉢に森をつくる。森の成り立ちを知り、小さな命をいとおしむ心を養う。

【6年生】

レンジャーのお部屋(興味別自然体験プログラム)

 ・虫を応援するプログラム

 ・小動物を応援するプログラム

 ・鳥を応援するプログラム

 ・ヤマネを応援するプログラム

道草ハイキング 川俣川渓谷の自然に親しむ。

このプログラムをスタートさせたのは1990年です。当時は自然保護を中心とした環境教育が学校現場に十分浸透していた時期ではありませんでした。6年生の子どもたちが体験した自然体験プログラム(ネイチャーゲーム)、道草ハイク、ア・ピース・オブ・フォレストなどはまさに五感を使っての環境教育プログラムでした。子どもたちにとってもこの体験は貴重なものでした。 学校に帰り子どもたちが企画したのは、学校で環境教育プログラムを実施してみようということでした。企画はすべて子どもがつくりました。レンジャーには子どもがなりました。

私が勤務している学校は都会の中でも緑が多い環境に恵まれたところです。なにげなく暮らしている学校の自然を、子どもたちが計画したプログラムを通して再認識すると同時に、自然を守ることの大切さをさらに学んだのでした。

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●五感で動物園を探る

 私には3人の子どもがいます。高校生の男の子、中学生の男の子、一番下の娘は小学生です。男の子二人は、地域の野球チームに入っていました。野球の練習や試合は「五感」をたっぷり使うことに気が付きます。娘もとにかく外で遊ぶのが大好きで、私がいつも疲れてしまいます。家の近くに多摩川があり、土手や河川敷で遊んだり、ゴマヒゲアザラシのタマちゃんが最初に見つかった多摩川に近い多摩川台公園で遊んだりします。外で遊ぶ時は「五感」をたっぷり使います。それが自然な姿なのでしょう。

 動物園は子どもの「五感」が大いに発揮できる場所です。横浜市立野毛山動物園には娘と一緒によく行きます。京浜急行日の出町駅から坂道を登って10分ぐらいのところにあります。入園料は無料です。レッサーパンダ、チンパンジー、ライオン、トラ、キリン、ペンギン、ツキノワグマ、コンドル、オオタカなどの動物を見ることができます。もちろん、匂いを嗅ぐことや声も聞けます。あるときには、オスのライオンがものすごく大きな声で長い時間吠えていました。ライオンのこんな声を聞いたのは私にとって初めてでした。             

 

 野毛山動物園では「なかよし広場」があり、そこではモルモット、ハツカネズミ、ニワトリ(チャボ)、ヒヨコを抱いて触れ合うことができます。触れ合う時間もたっぷりとれます。子どもと一緒に大人も楽しそうに触れ合っていました。私も久しぶりに触りましたが、その感触に懐かしさを感じるとともに癒されることに気が付きました。小動物に触れ合うことができる動物園は、子どもも大人も「五感」を呼び起こす大切な教育の場であると感じました。

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(作品、写真、イラストは共著『子どもを育てる五感スクール 感覚を磨く25のメソッド』東洋館出版、2006年。から引用しました。)

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