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NIE とは何か

 NIEとは Newspaper in Educationを省略したもので、「教育に新聞を」と訳されています。

 新聞界と教育界が協同で取り組む教育活動です。

 その特色は、それぞれの記事を切り抜いて使うのではなく、新聞をまるごと使うところにあります。


 1930年代、アメリカ合衆国のニューヨーク・タイムスが始めたという説もありますが、一般的には、文字離れを深刻に考えたアイオワ州のデモイン・レジスター紙と米国教育協会とが、1955年に共同で始めたとされています。1997年の世界新聞協会の「第4回世界NIE調査」によると、35ヶ国でNIEが行われていました。2001年の世界新聞協会の「第5回NIE調査」では17ヶ国増えて、52カ国でNIEが行われていました。2006年の「第6回NIE調査」では64カ国に増えました。 そして、2011年NIE実施国は74カ国になりました。しかし、この数年の新聞離れで実施国は減っている可能性もあります。

NIEの原点はジョセフ彦であった
 

 

 NIEの原点はジョセフ彦と言えるのではないでしょうか。
 ジョセフ彦は、1864年6月28日、日本で初めての新聞「新聞誌」を発行しました。ジョセフ彦はその「新聞誌」の創刊の辞で「童子之輩にも読なんことを欲す(本文ママ)」と書いています。
 それは「子どもたちにもこれを読み情報を知って欲しい」という意味です。つまり、NIEの原点はジョセフ彦が発行した日本で初めての新聞「新聞誌」にあったのです。それには、「いかに分かりやすく情報を伝えるかという彦の思いが込められている」のです。 
 「新聞誌」創刊号は、半紙に手書きで書かれた10ページのもので、発行部数は5部で無料配布されました。内容は、アメリカ、オランダ、イタリアの政治・経済・戦争の情報や世界各国の茶・烟草・綿の値段、相場を記した記事などでした。 
 さらに、ジョセフ彦は、自分の書いた記事に責任をもつために、文章の末尾にはHJの署名を載せました。このこともNIEにおけるメディアリテラシーの原点とも言えるでしょう。 

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なぜNIEを進めるのか
 

  
 NIEをなぜ進めるのでしょうか。それは、新聞という活字メディアを通して社会に関心をもち、多様な価値観を身に付けることが、よりよい社会をつくりあげることに大きな役割を果たすと考えるからです。 
 NIEの特色は、教育界と新聞界との協力的な運動、切り抜きではなく新聞を丸ごと使うことです。 
 教育界と新聞界との協力的な運動は、新聞界のもつ多様な人材や資源を教育界に還元していくことと共に、教育界から新聞界への提言により分かりやすさなど紙面を改革していくことです。 
 切り抜きではなく新聞を丸ごと使うは、学習者が新聞の読み方を学ぶと共に、自らの判断により選択した記事により学習が進むことにより、情報化時代に主体的に行動できる力を育成することです。 
これらの活動が効果的に行われることがNIEを進める上で欠かすことができません。。 

NIEでどんな学力が身につくか 

 

      
 新聞でどのような学力が身につくかを研究することは重要な課題です。40年近くの実践から、少なくとも「社会への関心が向く」ことは実感しています。今後この研究が進むことを願いながら、私が所属している日本NIE研究会では『新聞でこんな学力がつく』(東洋館出版、2004年、4月)を刊行しました。編集責任者の一人として構成を担当し、刊行までのお世話をしました。今後、この本を手がかりに、NIEと学力の問題をさらに研究していく個人やグループが出てくればうれしいことです。
 NIEと学力問題を考える際に二人の大学の先生を注目しています。一人は前筑波大学教育学系教授の門脇厚司氏です。もう一人は前横浜国立大学人間科学部教授の影山清四郎氏です。二人の理論は私に大きなヒントを提供してくださっています。
 

 

門脇厚司氏の「社会力』
 門脇氏は一連の著作の中で「社会力」を育成することを提起されています。門脇氏は「社会力」を「社会の運営に積極的にかかわろうとする態度や、よりよい社会をつくろうとする意欲を含み、さらには、よりよい社会を構想する能力や、構想した社会を実現していくことができる諸々の資質や能力のことを意味させている。」としています。(『学校の社会力』(朝日新聞社、2002年。より)。
 NIEで育つ学力として、一般的には「語彙がふえる」「文章が読めるようになる」「文章が書けるようになる」「国際的な問題に関心を持つようになる」「環境問題に関心をもつ」「科学的な知識が増え、科学に関心をもつ」「情報を受け取る力」「情報を発信する力」などがあげられます。
 門脇氏の「社会力」はこれらの学力をさらに包括するものとして位置付けられるのではないでしょうか。
【参考文献】
門脇厚司『子どもの社会力』岩波新書、1999年。
門脇厚司『学校の社会力』朝日新聞社、2002年。
門脇厚司『親と子の社会力』朝日新聞社、2003年。

 

 

影山清四郎氏の「新聞の教育力」
 影山氏は日本NIE学会の初代会長でした。日本NIE研究会著の『新聞でこんな学力がつく』(東洋館出版、2004年4月)の第2章「新聞と学力」で「新聞の教育力」について述べられています。
 「新聞を対象にした学習は、①児童生徒を現実社会に直面させ、②学校の学びを開かれた、具体的なものにする、③新聞情報が多肢にわたるだけに、教師は児童生徒の関心に基づく取捨選択を認めることになり、④児童生徒間でもお互いの切り取りと解釈を容認し合い、正解にとらわれないコミュニケーションを生み出し、⑤そのコミュニケーションが家庭・地域へと広がる可能性をもっている。それのみにとどまらず、新聞を読むということは、それなりの作法が必要になってくる。⑥その作法は5W1Hもさることながら、まずは、字が読めなければならないし、その意味を考えなければならない。⑦新聞情報といえども、やはり、記者や新聞社の目によって切り取られた情報であるので、他紙と比べる必要も生じてくる。8見出しや写真で左右される自己への気づきを促し、⑨さらには、こうした関門を乗り越えて情報発信の主体へと容易に転化させ、⑩こうした営みは、児童生徒自身が小さな社会人として生活することを励ますことになろう。」
 教育的な視点から極めて明確に「新聞の教育力」を提起されています。
【参考文献】
影山清四郎「新聞と学力」『新聞でこんな学力がつく』東洋館出版、2004年、所収。

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