NIEで算数を
NIEというと、国語や社会科での取り組みが多くありますが、算数の学習にも可能です。特に、この4月から実施された「学習指導要領 算数」では、新しい領域として「データの活用」が位置付きました。この学習にはNIEは最適です。
例えば小学校6年生の目標には「身の回りの事象から設定した問題について,目的に応じてデータを収集し,データの特徴や傾向に着目して適切な手法を選択して分析を行い,それらを用いて問題解決したり,解決の過程や結果を批判的に考察したりする力などを養う」とあります。
こうした、身の回りの事象から問題を設定したりデータを収集したりするには、教科書よりも新聞(ニュース)などのメディアのほうが、より多様で現実に対応した問題を設定でき、データを集めることができます。
そのようなNIEでできる算数のアイディアを紹介していきます。
1 新聞に出ている数字を探そう
まず、数になれるために新聞の中で様々な数字を探してみましょう。
① 一番大きい数字を見つけよう
② 一番小さい数字を見つけよう
③ 一番長いものを見つけよう
④ 一番古いものを見つけよう
⑤ 一番重いものを見つけよう
⑥ 自分が変わっていると感じた数、おもしろいと感じた数を探してみましょう
⑦ 新聞に出ている数には、基本的には意味があります。それぞれの数がどんな意味があるのかを考えてみましょう
例(架空の記事です)
2020年4月、ブンデスリーグのヤマダ選手が48年ぶりの大記録を樹立しました。ヤマダ選手は昨日の試合で7点を入れ、1試合の最多ゴール数を更新しました。これまでの記録は、1977年8月にディーター・ミュラー選手が記録した6得点です。
ヤマダ選手は、身長が170センチとブンデスリーグの選手の中では小柄ですが、そのスピードを生かし、今季は32試合に出場し、17ゴールと大爆発。1試合あたり0.53得点、ゴール率は5割を越えています。
これによりチームも大躍進、今シーズンは3位の順位につけています。
この記事にはいくつもの数字が出ています。それぞれがどんな数字で、どんな意味があるのかをまとめてみましょう。
※数には、量を表す、割合を表す、順序や位置を表す、などの役割があります。それぞれの数字がどんな役割をもっているのかを考えることが大事です。
【解説】
算数の学力を高めるには、算数を日常で使うことが一番です。
① 学習指導要領では、各学年で次のような数を学習することになっています。
1年生 順序や位置を表す数、2位数と簡単な3位数
2年生 4位数 十進位取り記数法、1/2 1/3などの簡単な分数
3年生 万の単位(1億)、小数
4年生 兆、概数、小数、分数
5年生 約数、倍数、偶数、奇数
6年生 文字式
② 数の役割について
文部科学省の調査によると、例えば、平行四辺形の面積を求める問題で、「底辺、高さ」だけを与えると9割以上の正答率になりますが、「底辺、高さ、もう一つの数値」を与えると7割程度の正答率になります。この2割の子どもたちは、それぞれの数の意味を理解していないと考えられています。
こうした経験を重ねることで、文章題を解く際にも、出てきている数が何を表していて、どの数を使えばよいのかを意識することができるようにもなります。
2 量感を育てよう
新聞には、様々な量が出てきます。
例えばお金、国の予算などいろいろな場面で出てきます。面積なども多く出ているでしょう。
① イメージしやすいものに置き換えてみよう
「森林の何ヘクタールが消失」と言われても、どれくらいかをイメージするのは簡単なことではありません。
そういう場合は、身近なものに置き換えてみましょう。
昨年のオーストラリアの森林火災では19万平方キロが焼失したと報道されています。この19万平方キロというのは、どれくらいでしょうか。
イメージするには、自分なりの物差しをつくればわかりやすいでしょう。
例
東京都:約2200平方キロメートル
北海道:約83000平方キロメートル
日 本:約38万平方キロメートル
これで考えると、日本の半分が消失したことにもなります。どれだけ大きな火災だったのか、イメージしやすくなるでしょう。
② 別の量に置き換えてみよう
日本銀行によると、お金の大きさは次のようになっています。
1万円の面積:121.6平方センチメートル
1万円の厚さ:約0.1ミリメートル(1千万円で10センチメートル)
これをもとに、新聞記事に出ているお金の高さ、敷き詰めたときの面積を計算してみましょう。
【解説】
平成20年4月に実施された文部科学省の学力テストで次のような問題が出ました。
●約150平方センチメートルの面積のものを、下の(1)から(4)までの中から1つ選んで、その番号を書きましょう。
(1)切手1枚の面積
(2)年賀はがき1枚の面積
(3)算数の教科書1冊の面積
(4)教室1部屋のゆかの面積
正解は、(2)です。
正答率は17.8%で、それぞれの解答率は(1)1.3%、(3)49.2%、(4)30.6%でした。
150平方センチメートルは、10センチ×15センチ程度の大きさです。
ほとんどの子どもは10×15の計算は間違わないでしょう。それでも正答率は2割を切っています。教室の床の面積と答えた子どもも3割います。
このテストで、計算はできても量感がない子どもの実態が浮き彫りにされました。
では、この量感を高めるにはどうすればよいでしょうか。
1つは、体験を重ねることです。例えば、1リットルの水は1キログラムです。日常でペットボトルの重さをなどを実感することで、だいたいの重さや量がイメージできるようになります。
もう1つは、数や量をいろいろな角度から見る経験を積み重ねることです。
例えば、24という数は、10が2つと1が4つ集まった数です。また12が2つという見方もできます。これは数の加法的な見方で、比較的わかりやすい見方です。
また、24は3×8でもあり4×6でもあります。これは数の乗法的な見方で、算数が苦手な子どもは、これがなかなかできません。
このように1つの数もいろいろな角度で見ることができ、それが算数・数学の力につながっていきます。
同様に、量についても、いろいろな見方をすることができます。単位の換算などもそうです。身近なものに置き換えてみるということもできます。
次のような新聞記事がありました。
「佐賀県唐津市の漁港に5月、金塊約206キロ(9億3000万円相当)が密輸された」
この金塊約206キロは、どれくらいの大きさなのでしょうか。
水の場合は、ドラム缶1本分です。
これも体積にするとバケツ1杯分(10リットル)です。子どもならば4人分です。それがバケツ1杯ですから、子どもにとって、ちょっと驚くところではないかと思います。この事件のイメージも変わるのではないでしょうか。
3 新聞に出ている数字 実際の記事で探してみると
新型コロナウイルスはすべての人々に、今まで体験したことがない影響を与えています。学校もいつ再開できるか分からない状況です(2020年5月2日現在)
この新型コロナウイルスの記事やニュースには多くの数字やデータが使われています。それこそ算数の力を活用し、新型コロナウイルスの現状を捉え、その対策を一人一人考えるとともに、今後どのようになるか推測していくこともできるかもしれません。詳しい学習方法は、学びの未来研究所の「世の中なるほど探検隊」のコーナーで紹介していきますが、ここでは新聞に出ている数字を実際の記事で探してみましょう。
「一律10万円 中小企業に最大200万円」「25兆円 補正予算成立」(『朝日新聞』2020年5月1日朝刊)という記事がありました。一律10万円は子どもにも配布されるお金ですので、子どもにとっても楽しみだし関心がある記事でしょう。「億」という単位は小学校3年生で、「兆」という単位は小学校4年生で学習するものです。このような大きな数は実感することが難しいですが、このような記事は人々にとって切実なものですので、少しだけでも関心をもってもらうことができるかもしれません。
記事の中に「2020年度補正予算に盛り込まれた主な対策」の一覧があります。このデータは6年生の社会科の政治単元(今年度から6年社会科で最初に学習することに位置付けられている)でも活用できます。算数と社会を融合することができます。
① 10万円の給付金 12兆8803億円
② 中小企業の資金繰り 3兆8316億円
③ 持続化給付金 2兆3176億円
④ 観光振興 1兆6794億円
⑤ 地方自治体への臨時交付金 1兆円
⑥ 休校中の学習支援 2292億円
⑦ 雇用の維持 690億円
⑧ 布マスクの配布 233億円
⑨ その他
総額 25兆6914億円
さらに、こんな学習ができるでしょう。
① 10万円の給付金 すべての人を対象に市区町村か順次給付とあります
予算は12兆8803億円ですから、10万円で割れば何人の人に配れるのかがわかります。それが、現在の日本のおよその人口になります。
12兆8803億÷10万=1億2880万3000人
12880300000000から0を5個とればいいことになります。
1億2880万3000人がおよそ現在の日本の人口ということになります。
ところで、どういう人が給付対象者になるのでしょうか。基準日(令和2年4月27日)において、住民基本台帳に記録されている方になります。例えば2020年5月5日のこどもの日に生まれた赤ちゃんは、給付の対象にはならないことになります。そういうルールのことも学べますね。
④ 観光振興 1兆6794億円
感染拡大収束後の観光などに対する消費喚起策「Go Toキャンペーン」の費用
この予算案については、今やることではないのではという意見が出ています。大学生の中にはアルバイトをして学費や生活費を捻出している人がいます。多くの大学生はアルバイトの仕事がなく困っています。このような大学生を支援するための予算が今必要だと主張する人もいます。
⑧ 布マスクの配布 233億円
全世帯に1世帯あたり2枚の布製マスクを配布する。
すでに自宅に届いた家庭もあるでしょう。汚れていた、髪の毛が付いていたなどの苦情があり、送付が遅れているようです。この布マスク本当に必要なのでしょうか。最近、マスクも少し高めですが薬局以外のお店で売られていることもあります。このお金も今困っている人へ回せないかという意見もあります。
数字のもつ意味を世の中の出来事の中で考えていくと、算数が机の上や教科書・問題集の中だけのものではないことを学べますね。
4 テレビに出ている数字 実際にニュースで探してみると
5月2日のTBS「まるっと!サタデー」を見ていたら、「新型コロナで中国に賠償請求」という話題が出ていました。世界の国々が中国政府に対してなんと1京円という額を請求するのではというニュースでした。「京」という単位は先ほどの「兆」の上の単位です。世界全体のGNP(国民総生産)の額が1京という話も番組の中で出ていました。本当に賠償請求されるのか分かりませんがすごい額ですね。これも算数で活用できますね。
その同じ番組で、困窮したネットカフェ難民の方の所持金が30円であったという話題でした。数字はいろいろなことを考えさせてくれますね。