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​​私立小学校研究の道しるべ 私立小学校研究:先行研究から学ぶ

 私立小学校研究への道は困難が予想されます。学校教育研究の大部分は公立学校を対象にしてきています。これはある意味当然のことでしょう。私立小学校は学校数で日本の小学校の1.2%を示すだけです。それも高額な授業料がかかり一部の経済的に豊かな家庭の子どもが通える小学校と位置付けられているからです。ほとんど私立小学校の先行研究がない中での研究です。短期間に研究することは困難でしょう。木村元著『学校の戦後史』岩波新書、2015年。は興味深く学ぶところが多い著作でしたが、私立学校についてはほとんど記述がありませんでした。
 そこで、私立小学校研究への道しるべとして、いくつかの教育経済学者や経済学者、ジャーナリスト、幼児教育実践者、教育学者、心理学者などの著作を紹介し、研究に繋がることを模索していきたいと考えます。

『「学力」の経済学』
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中室牧子著

ディスカヴァ―・トゥエンティワン、2015年

 

​著者略歴(本書より)

 1998年慶應義塾大学卒業。米ニューヨーク市のコロンビア大学で博士号を取得(Ph.D).日本銀行や世界銀行での実務経験を経て2013年から慶應義塾大学総合政策学部准教授に就任し現在に至る。専門は教育を経済学的な手法で分析する「教育経済学」。

 目次
はじめに
第1章    他人の“成功体験”はわが子にも活かせるのか?
        データは個人の経験に勝る
第2章    子どもを“ご褒美”で釣ってはいけないのか?
        科学的根拠に基づく子育て
第3章    勉強は本当にそんなに大切なのか?
        人生の成功に重要な非認知的能力
第4章 “少人数学級”には効果があるのか?
    科学的根拠なき日本の教育政策
第4章    “いい先生”とはどんな先生なのか?
        日本の教育に欠けている教員の「質」という概念
補論  なぜ、教育に実験が必要なのか
あとがき
参考文献
 

 

 

 私が教育経済学という研究領域を知ったのは、2015年に出版された中室牧子さんの『「学力」の経済学』を読んだことでした。すぐに考えたことは、私立小学校は国立や公立とは違う教育や経営が必要であり、教育経済学という視点は私立小学校の教員では特に不可欠なものではないかということでした。
 私は高校までは公立学校に通いました。3人の子どもたちも中学までは公立学校に通っていました。私や子どもたちは私立小学校とは全く無縁でした。自分の中に方向転換があり、中学や高校の社会科の教員免許を取得した後で小学校の免許を取得しましたが、音楽や図工は苦手でした。それで、大学の先生の紹介で私立小学校に採用され39年間勤務することになったのです(もちろん音楽や図工は一度も担当したことはありません)。公立学校の素晴らしいところは体験していますし、多くの公立学校の先生方との交流・研究の機会が学生時代や教師になってからありましたし、現在でもあります。公立学校で学んできた体験と多くの公立小学校の先生方との交流と私立小学校で勤務してきた体験を踏まえ、私立小学校研究を進めることが私のスタンスです。
 その私立小学校研究で、教育経済学の視点は大きな役割を果たすと考えているのです。教育経済学で取り扱う問題としては「教育の経済的効果、教育の費用負担、教育における効率性と教育計画、教育の便益に関する分析が主である」(Wikipediaより)とされます。国立学校や公立学校と違い保護者からの授業料等によって学校が存続されるのですから、学校経営者だけでなく教師も教育経営的視点をもつことが求められるのです。

 『「学力」の経済学』を読んで、ポイントだなと思ったことをメモしていました。そのメモを紹介します。太字は私立小学校で特に関連があると思うところを示し、赤字は私のコメントです。

他人の子育て成功体験を真似しても自分の子どももうまくいく保証はない。(15頁)
教育経済学では、たった一人の個人の体験よりも、個人の体験を大量に観察することによって見出される規則性を重視する。(17頁)
  私立小学校は教育理念・教育の特徴に基づき、教育課程に6年間一貫しての特徴があります。長く勤務する教員が多く、教員の入れ替わりが比較的少ないです。個人の体験を多く観察することができます。

経済学者は教育政策の因果関係を明らかにするため、教育の分野で「実験」を行っている(25頁)
「今勉強しておくのがあなたのため」は経済学的に正しい(29頁)
すぐに得られるご褒美を設定することは、「今勉強すること」の利益や満足を高めること(32頁)
ご褒美は「テストの点数」などのアウトプットではなく、「本を読む」「宿題をする」などのインプットに与えるべき(36頁)
  学校により方針は異なりますが、「本を読む」「宿題をする」という課題はどの学年でも行っていることが多いようです。
ご褒美を与えることは、必ずしも、子どもの「一生懸命勉強するのが楽しい」という気持ちを失わせるわけではない(39頁)
アウトプットではなくインプットに、遠い将来ではなく近い将来にご褒美を与えるのが効果的(41頁)
成績が悪かった子の自尊心をむやみに高めるようなことを言うのは逆効果(48頁)
子どもをほめるときには、もともとの能力でなく、具体的に達成した内容を挙げることが重要(51頁)
1時間テレビやゲームをやめさせたとしても、男子は最大1.86分、女子は最大2.70分学習時間が増加するにすぎない(56頁)
1日1時間までならテレビもゲームも問題ない。2時間以上だと、学習時間などへの負の影響が大きくなる(57頁)
子どもの学習時間を増やすには手間暇かかるが、親以外の親族、先生などの助けを借りてもよい(62頁)
  学校により方針は異なりますが、プライベートなレッスンや個別指導の機会をつくっている家庭は多いようです。

平均的な学力の高い友だちの中にいると、自分の学力にもプラスの影響がある(65頁)
 受験を経て入学しているので、全体的に学力が高いようです。切磋琢磨する機会は多いと考えられます。

学力が優秀な子どもに影響を受けるのは、上位層だけ。「学力の高い友だちといさえすればよい」は間違い
(66頁)
習熟度別学級がとくに大きな効果をもたらしたのは、もともと学力が低かった子どもたち
(70頁)
引っ越しという強制的な環境の変化が負のピア・エフェクトを小さくし、子どもを守ることもある
(72頁)
人的資本への投資はとにかく子どもを小さいうちに行うべき(76頁)
  私立小学校に入学する幼児の多くは幼児教育に多額の投資をされています。しかし、どの幼児教室も幼児の能力を適切に伸ばしているか問題もあるようです。

幼児教育への財政支出は、社会全体でみても割のよい投資(82頁)
 幼児教育への無償化は割のよい投資になるのか、幼児教室で学ぶ機会や私立小学校受験者が増えることが考えられます。

非認知能力は将来の年収、学歴や就業形態などの労働市場における成果に大きく影響する(86頁)
学校は、学力に加えて、非認知能力を培う場でもある
非認知能力とは何か
(学術的な呼称)      (一般的な呼称)
自己認識          自分に対する自信がある、やり抜く力がある
意欲            やる気がある、意欲的である
忍耐力           忍耐強い、粘り強い、根気がある、気概がある
自制心           意志力が強い、精神力が強い、自制心がある
メタ認知ストラテジー    理解度を把握する、自分の状況を把握する
社会的適性         リーダーシップがある、社会性がある
回復力と対処能力      すぐに立ち直る、うまく対応する
創造性           創造性に富む、工夫する
性格的な特性        神経質、外交的、好奇心が強い、協調性がある、誠実

(87頁)
重要な非認知能力「自制心」「やり抜く力」(90頁)
非認知能力を伸ばす方法
「自制心」継続と反復
「細かく計画を立て、記録し、達成度を自分で管理する」
「やり抜く力」心の持ちよう
「自分のもともとの能力は生まれつきのものではなくて、努力によって後天的に伸ばすことができる」

(92~94頁)
しつけは勤勉性という非認知能力を培う重要なプロセス(96頁)
 私立小学校は一人の児童に多くの先生が関わることが多く、児童の多面的な資質を伸ばし非認知能力を育成することが伝統的に行われてきています。
目の前の定期試験のために、部活や生徒会などをやめさせることには慎重であるべき(98頁)
少人数学級には効果があるが、費用対効果は低い(105頁)
教育を受けることの経済的な価値に対する誤った思いこみを正すだけで、子どもの学力は上がる(108頁)
日本の研究でも、少人数学級の因果効果は小学生の国語以外の科目では確認されていない(113頁)
「2020年までにすべての小中学校の生徒1人に1台のタブレット端末を配布する」は手段の目的化(116頁)
「学力テスト」に一喜一憂してはいけない
学力テストの結果だけみても、政策的に有用な情報はほとんど得られない
学力テストの県別順位は、単に子どもの家庭の資源の県別順位を表しているにすぎない可能性もあるのです
「日本の公立小・中学生の学力テストの都道府県別順位」となっているのが現状なのです
四谷大塚が集計している「全国統一小学生テスト」の県別順位を見てみると東京・神奈川などが上位になっています。こちらは、私立も含んだ調査だからです。
学力テストの結果を公表するなら、家庭の資源を表す情報も紐づけて公開すべき(117~126頁)
  私立小学校の児童の学力は高いことが考えられます。多くの学校は大学や高校まで系列の学校がありますので、多くの児童は中学受験を目指しているわけではありません。日常の学習がテスト結果にも影響を与えることが考えられます。

ある世代の子ども全員を対象にして「平等」に行われた政策は、親の学歴や所得による教育格差を拡大させてしまうことがある
(129頁)
親への補助金が子どもの学力を上昇させる効果をもつかどうかについては、コンセンサスが得られていない(132頁)
世代間の平等に固執すると世代間の平等が失われる可能性がある(135頁)
国民の税金を投じた調査により示されたデータは国民の財産(140頁)
能力の高い教員は、子どもの遺伝や家庭の資源の不利すらも帳消しにしてしまうほどの影響力を持つ(143頁)
カリフォルニア州では、教員の「付加価値」はウェブ上で公開されている(145頁)
少子化が進む中では、教育の「数」を増やすよりも教員の「質」を高める政策の方が有効(147頁)
 私立小学校の多くは、理科・音楽・図工・体育・家庭・英語などの教科は専科制にしています。また、高学年で国語・算数・社会をそれぞれ専科制にして教え、完全な教科担任制にしているところもあります。先生方の専門性を生かして質を高めています。
教員研修が教員の質を高めるというエビデンスは多くない(152頁)
教員免許は「参入障壁」なのか(154頁)
教員になるための参入障壁をなるべく低くする、つまり教員免許制度をなくしてしまうということです(155頁)
免許という参入障壁が、能力の高い人が教員になったり、あるいは他の職業で活躍してきた人が教員に転職したりするのを妨げている可能性があるからです。(155頁)
経済学者の間では教員免許の有無による教員の質の差はかなり小さいというのがコンセンサスとなっています。(156頁)
教員免許の存在は教員の質を担保しているわけではない(157頁)
ランダム化比較試験は「政策評価のゴールドスタンダード」(162頁)

 中室牧子氏の『「学力」の経済学』に大きな影響を与えたのが、次のような経済学者です。
 「ノーベル経済学賞受賞者であるシカゴ大学のゲイリー・ベッカーズ教授やジェームズ・ヘックマン教授に加えて、もっとも優秀な40歳以下の若手経済学者に贈られるジョン・べイツ・クラーク賞の受賞者であるマサチューセッツ工科大学のエスター・デュフロ教授、ハーバード大学のラージ・チェチィ教授、ローランド・フライヤー教授らには、教育経済学の分野であまたの研究業績があります。教育は、今や世界中の優れた経済学者の興味を惹きつけてやまない研究テーマのひとつなのです。」(26頁)
 

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『幼児教育の経済学』
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ジェームズ・J・ヘックマン著

大竹文雄解説、古草秀子訳

東洋経済新報社、2015年

​著者略歴(本書より)

 シカゴ大学ヘンリー・シュルツ特別待遇経済学教授。1965年コロラド大学卒業。1971年プリンストン大学でPh.D.(経済学)取得。1973年よりシカゴ大学にて教鞭を執る。1983年ジョン・べイツ・クラーク賞受賞。2000年ノーベル経済学賞受賞。専門は労働経済学。
 

目次
パートⅠ
子供たちに公平なチャンスを与える
  ジェームズ・J・ヘックマン
パートⅡ
各分野の専門家によるコメント
職業訓練プログラムも成果を発揮する
  カリフォルニア大学ロサンゼルス校大学院教育・情報学部教授 マイク・ローズ
幼少期の教育は母親の人生も改善する
 ジョージタウン大学法律センター法学および哲学教授 ロビン・ウェスト
幼少期の教育的介入に否定的な報告もある
 アメリカンエンタープライズ研究所W・H・ブレイディ研究員 チャールズ・マレー
思春期の子供への介入も重要だ
 スタンフォード大学心理学教授 キャロル・S・ドウェック
質の違いよりすべての子がプログラムを受けられることが大事だ
 ハーヴァード大学教育学部大学院教育学および経済学准教授 デヴィッド・デミング
ペリー就学前プロジェクトの成果は比較的小さい
 ケイトー研究所教育的自由センター副所長 ニール・マクラスキー
学業成績や収入は大事だが、人生のすべてではない
 ペンシルヴェニア大学社会学教授 アネット・ロー
良いプログラムは何が違うのかを研究し続ける必要がある
 ワシントンDCのチャータースクール教師 ルラック・アルマゴール
恵まれない人々の文化的価値観に配慮した介入を
 オックスフォード大学ベリオールカレッジ政治学講師 アダム・スウィフト
 ウィスコンシン大学マディソン校哲学教授 ハリー・ブリグハウス
就学前の親への教育と「考え方を変えること」が子供たちを救う
 ハーレム・チルドレンズ・ゾーンの創設者、代表者 ジェフリー・カナダ
パートⅢ
ライフサイクルを支援する
  ジェームズ・J・ヘックマン
解説
就学前教育の重要性と日本における本書の意義
 大竹文雄(大阪大学副学長、大阪大学社会経済研究所教授)

 日本の教育経済学や幼児教育に大きな影響に与えたのが、ジェームズ・J・ヘックマン著『幼児教育の経済学』です。2015年7月に翻訳本が東洋経済新報社から出版されました。中室牧子氏の『「学力」の経済学』とほぼ同じ時期の出版でした。本の帯には次のような刺激的な言葉が書かれています。
 「脳科学との融合でたどりついた衝撃の真実!」「ノーベル賞経済学者が40年以上にわたって追跡調査」「5歳までの教育は学力だけでなく健康にも影響する」「6歳時点の親の所得で学力に差がついている」「ふれあいが足りないと子の脳は委縮する」「やる気・忍耐力・協調性 幼少期に身につけた力が人生を変える!」。

 本書からポイントを引用します。

 「今日のアメリカでは、どんな環境に生まれあわせるかが不平等の主要な原因になっている。アメリカ社会は専門的な技術を持つ人と持たない人とに両極化されており、両差の相違は乳幼児期の体験に根差している。恵まれた環境に生まれた子供は、技術を持たない人間に成長して、生涯賃金が低く、病気や十代の妊娠や犯罪など個人的・社会的なさまざまな問題に直面するリスクが非常に高い。機会均等を声高に訴えながら、私たちは生まれが運命を決める社会に生きているのだ。
 生まれあわせた環境が人生にもたらす強力な影響は、恵まれない家庭に生まれた者にとっては悪である。そして、アメリカ社会全体にとっても悪である。数多くの市民から社会に貢献する可能性を奪っているのだ。
 これは是正することができる。適切な社会政策を施せば、技能労働者と単純労働者との両極化を阻止できるのだ。だが、適切な政策は入手可能な最善の科学的証拠によって情報を与えられなければならない。そのためには、代替となる政策の利益だけでなく、費用にも最新の注意を払う必要がある。証拠を入念に検討したところ、社会政策策定のための三つの大きな教訓が示唆される」(10頁)
 その3つの教訓とは
「第一に、人生で成功するかどうかは、認知的スキルだけでは決まらない。非認知的な要素、すなわち肉体的・精神的健康や根気強さ注意深さ、意欲、自信といった社会的・情動的性質もまた欠かせない。(後略)」(11頁)
「第二に、認知的スキルも社会的・情動的スキルも幼少期に発達し、その発達は家庭環境によって左右される。(後略)」(11頁)
「第三に、幼少期の介入に力を注ぐ公共政策によって、問題を改善することが可能だ。(後略)」(11~12頁)

 幼少期の介入が変化をもたらすことを実験的に証明したペリー就学前プロジェクトについて次のように書かれています。
 「ペリー就学前プロジェクトは、1962年から1967年にミシガン州イプシランティで、低所得でアフリカ系の58世帯の子供を対象に実施された。就学前の幼児に対して、午前中に毎日二時間半ずつ教室での授業を受けさせ、さらに週に一度は教師が各家庭を訪問して90分間の指導をした。指導内容は子供の年齢と能力に御応じて調整され、非認知的特質を育てることに重点を置いて、子供の自発性を大切にする活動を中心としていた。教師は子供が自分で考えた遊びを実践し、毎日復習するように促した。復習は集団で行い、子供たちに重要な社会的スキルを教えた。就学前教育は30週間続けられた。そして、就学前教育の終了後、これを受けた子供と受けなかった対象グループの子供を、40歳まで追跡調査した。(後略)」

  最終的な追跡調査では、就学前教育を受けた子供は、受けなかった子供よりも学力検査の成績が良い、学歴が高い、収入が多い、持ち家率が高い、逮捕者が低いなどの差があったとされます。
 日本では現在このような追跡的調査をすることはできないので、日本の教育にどのように応用するか慎重に考えていくことは必要でしょう。

 幼児教育の大切さと、認知能力を身につける過程で非認知能力の育成を図ることの必要性を学んでいくことは不可欠なことでしょう。
 非認知能力は学校教育でも大切です。ちなみに、私は39年の私立小学校での実践で、好奇心が強い、やり抜く力がある、意欲的である、社会性がある、創造性に富むの5つの視点を非認知能力の育成に関わるものとして特に捉えていました。

『子ども格差の経済学』
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橘木俊詔著

東洋経済新報社、2017年

著者略歴(本書より)

 1943年兵庫県生まれ。小樽商科大学卒業、大阪大学大学院修士課程修了、ジョンズ・ホプキンス大学大学院博士課程修了(Ph.D)。京都大学経済学部教授、同志社大学経済学部教授を経て、現在京都女子大学客員教授、京都大学名誉教授。その間、仏米英独で教育・研修職。2005年度日本経済学会会長。専攻は経済学。著書に『格差社会』(岩波新書)、『女女格差』(東洋経済新報社)、『早稲田と慶應』(講談社現代新書)、『学歴格差の経済学』(共著、勁草書房)、『東京大学』(岩波書店)、『教育と格差』(共著、日本評論社)、『灘校』(光文社新書)、『日本の教育格差』(岩波新書)、『京都三大学 京大・同志社・立命館』(岩波新書)『三商大 東京・大阪・神戸』(岩波書店)、『学歴入門』(河出書房新社)、『公立VS私立』(ベスト新書)、『ニッポンの経済学部』(中公新書ラクレ)、『実学教育改革論』(日本経済新聞出版社)、『プロ野球の経済学』(東洋経済新報社)など多数。

目次
はしがき
第1章    塾に行っている子と行っていない子でどの位の差がつくのか
 1 塾に行くことことの効果
 2 誰が塾に通うのか
第2章    ピアノやサッカーなどの習い事はどのような効果があるのか
 1 スポーツ活動
 2 芸術活動
第3章    1人の子どもを育てるのにいくらかかるのか
 1 学習関係の費用の推計
 2 学校外教育費用の推計
第4章    なぜ日本は教育を親まかせにしたのか
 1 学校教育を誰が負担するのか
 2 なぜ公共部門は教育費支出をしてこなかった
 3 教育は公共財でもある
第5章    子どもたちに親のできることと、社会のできること
 1 親は子どもをどう育てたらよいか
 2 社会はどういう政策をとればいいのか
あとがき
参考文献

橘木俊詔|著者ページ|東洋経済オンライン|経済ニュースの新基準
https://toyokeizai.net/list/author/%E6%A9%98%E6%9C%A8+%E4%BF%8A%E8%A9%94

 

 前記著書の中で、特に私立小学校に関することは第5章「子どもたちに親のできること、社会ができること」が該当します。
橘木氏は幼児教育の大切さを強調されます。
 「幼児教育の重要性は、非認知能力を高めるのに貢献する、ということに凝縮できる。ここで非認知能力とは、その人の性格なり精神、あるいは意欲に関する能力を意味し、具体的には忍耐力、自制心、協調性、指導力、計画性、向上心、意欲といった人の心に関するものである。そして、この非認知能力は知的能力(例えばIQ)、学力、そして学歴といった認知能力を高めるのに役立つのみならず、社会人になってからの職業生活における働き方やそれによる成果やひいては所得決定にも影響を与えるのである。」(198頁)

  非認知能力の育成が学校生活だけでなく、社会人になってからの生活に大きな影響を与えることを強調されています。
  
  前記のヘックマン氏の研究には批判もあることを述べています。ジェームズ・J・ヘックマン著、大竹文雄解説、古秀秀子訳『幼児教育の経済学』東洋経済新報社、2015年。に米国の大学の研究者など10人のコメント論文が掲載されています。そこに、橘木氏は注目していくつかの問題点を挙げています。
(1)    ペリー幼稚園プログラムなどの実験は標本数が少なく、断定はできないのではないか。(201頁)
(2)    ヘックマンは幼児教育の担い手として母親の役割を重視しているが、ウェストによるコメント論文として父親を無視してはならないというのがある。(202頁)
(3)    ヘックマンによる就学前教育の重要性の指摘は、中・上流階級の目線からの提言に過ぎない、との批判である。すなわち、学力を高くして高い教育を受けてから高い収入を稼ぐことが、真に人生にとって大切なことなのか、幸せな人生を送ることになるのか、という疑問である。(202頁)

 私立の小・中学校という選択について、以下のように述べています。
  「まず、地元の公立校にはいろいろな家庭の子ども、そしていろいろな素養なり性格を
持った子どもが集まる。いわゆる社会の縮図として、お金持ちから貧困の子ども、頭の良い子とそうでない子、勉強好きの子とそうでない子、身体の強い子と弱い子、けんかの強い子と弱い子、芸術に強い子とそうでない子、などそれこそ様々な特質をもった子どもが学級を形成するのである。
 教える側からすると、こういう様々な生徒のいる学級よりも、共通の素養を持ちかつ目的や性格を共有する子ども(例えば、勉強のよくできる生徒やスポーツに関心のある生徒)ばかりの方が教えやすいであろう。このことが私立の小学校や中・高一貫校の存在する理由の1つであるし、それぞれの学校が共通の素養をもっと高める可能性に期待できる。
 筆者の判断は、ここで述べた長所はわかるが、それを生かすには高校の段階で充分であり、小・中学校では様々な児童・生徒のいることのメリットを最重要視する。すなわち、生徒たちが世の中にはいろいろな特性を持った人がいるということを教室内で知ることができるので、子どもが大人になったとき人生をどのように生きていったらよいかを考える際に、大変有用な経験をすることの意義は大きい。年齢の非常に若い時代にこのような経験をしたほうが、頭に焼き付く確率は高いのである。」(204~205頁)

 橘木氏は、地元の公立の小・中学校に通うのがいいと考えます。高校まで公立学校に通った私にはその考えは十分理解できますが、その考えを超えたところに私立小学校の意味はあるのです。それが最大の研究課題として捉えることが必要となります。
 

『わが子を名門小学校に入れる法』
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清水克彦著

PHP新書、2004年

著者略歴(本書より)
  1962年愛媛県生まれ。早稲田大学教育学部卒業。文化放送入社後、ベルリンの壁崩壊、湾岸戦争、香港返還、米大統領選挙などを取材。主に政治記者として活動する傍ら、教育問題、国際問題などで特集を手がける。米日財団メディアフェローとして米国留学後、NRN全国ネットのラジオニュース番組「ニュースパレード」キャスター。番組ディレクターなどを努めながら講演活動などを続ける。

目次
  解説  本書をお読みになる前に 和田秀樹
   序   なぜ私立小学校を目指すのか
    第一章    名門私立小学校合格への道
    第二章    私立小学校はここが違う!
            伝統校の変革① 慶應義塾幼稚舎
            伝統校の変革② 学習院初等科
            伝統校の変革③ 早稲田実業学校初等部
            伝統校の変革④ 同志社小学校と立命館小学校(2006年4月開校予定)
            その他の伝統校の変革 東京女学館、立教女学院、暁星、東洋英和
            ノーブランド校の挑戦① 埼玉・開智学園総合部(小学校)
            ノーブランド校の挑戦② 神奈川・洗足学園小学校
            ノーブランド校の挑戦③ 東京・聖徳学園小学校
            その他、お薦めの私立小学校
    第三章    お受験・勝利の方程式
    第四章    父親奮戦!慶應幼稚舎合格のドキュメント
    第五章    憧れの首都圏有名小学校ガイド いずれも名門、17小学校
            青山学院初等部     学習院初等科
            暁星小学校       慶應義塾幼稚舎
            聖心女子学院初等科   白百合学園小学校
            成蹊小学校       成城学園初等部
            東京女学館小学校    桐朋学園小学校
            東洋英和女学院小学部  日本女子大学附属豊明小学校
            雙葉小学校       立教小学校
            立教女学院小学校    横浜雙葉小学校
            早稲田実業学校初等部
  おわりに
  解説  「お受験」とは、親子がともに成長する貴重な体験 和田秀樹
  参考文献

清水克彦公式ホームページ
http://k-shimizu.org/
  
 衝撃的なタイトルのこの本が出版されたのは、2004年です。その頃私は長い担任の仕事からはずれ教務主任に就任していました。今まで以上に私立学校の受験や日常の実践はどのようにいていくことが望ましいのか考えていく立場になりました。受験される保護者の面接や選考を通して、受験の実態をしっかり学ばなくてはいけないという意識がありました。
  受験関係者のお受験本は何冊か読んだ経験はありましたが、ジャーナリストの私立小学校の受験や学校のようすを紹介した本に出会ったのはこれが初めてでした。ジャーナリストの特性でしょうか、実に詳細に受験や学校の実態が記述されていました。また、娘さんのお受験体験も踏まえていて、保護者としての立場からの視点も特徴でした(娘さんは学習院初等科に入学されました)。私立小学校の実態は、直接授業を取材しての視点ではなく多様なデータを駆使して記述ですが、それぞれの学校の特徴がよく掴めていると感じました。
  勤務している学校の受験や実践は把握しているのは当然ですが、他校のようすが実に理解できる優れた著書でした。2020年現在、16年出版後経過している著書ですが、現在でも私立小学校を理解したり、研究したりすることに大いに参考になります。しかし、データなどが現在とは異なっていることがあります。これは当然のことです。例えば、次のような記述です。

  私立小学校にはどのようなタイプがあるのか簡単に分類しておきます。
(1)大学附属系……大学まで90%以上、進学する小学校
   慶應義塾幼稚舎、早稲田大学実業初等部など。
(2)大学附属系……大学まで半数以上が進む小学校
   青山学院初等部、学習院初等科、立教小学校、立教女学院小学校、日本女子大学附
   属豊明小学校、聖心女子学院初等科、成城学園初等学校など。
(3)大学附属系……大学まで進学する割合が半数以下の小学校。
   白百合学園小学校、東洋英和女学院小学部、成蹊小学校、玉川学園小学部、聖
      小学校など。
(4)    小中高一貫教育で大学進学実績を誇る小学校。
      暁星小学校、雙葉小学校、光塩女子学院初等科、晃華学園小学校、横浜雙葉小学校など。
(5)    中学受験に特に実績をあげる小学校。
      小野学園小学校、宝仙学園小学校、淑徳小学校、聖徳学園小学校、国立学園小学校、精華小学校、洗足学園小学校など。(65~66頁)
  
  現在では、大学附属系で半数以上進む小学校が半数以下の小学校に移動 したり、校名が変更(小野学園小学校は品川翔英小学校に変更)したりすることがありました。ぜひ手にとってご覧いただければ私立小学校の受験や学校のようすが理解できます。
  この本から多くのことを学んだ私は清水氏のメディアの仕事に関心をもちました。私のライフワークは私立小学校教育、NIE、社会科教育です。NIEもただ新聞を活用するだけでなく、メディアリテラシーの視点を重視していました。そこで、清水氏からメディアリテラシーについて直接お会いして学ぶとともに、公開授業の講師を務めていただきました。2006年8月23日、聖心女子学院初等科で日本私立小学校連合会全国夏季研修会の社会科部会公開授業が開催されました。6年社会科「世界のニュースを読み解く-新聞で歴史と世界の国々をつなぐ試み-」6年生の家族「世界のニュースを家族でコミュニケーション」の2つの授業を参観しての授業検討会で講師をしていただいたのです。その後、二人でメディアリテラシーを研究し、二人で共著を出版しました。
『メディアリテラシーは子どもを伸ばす』(東洋館出版、2008年)です。最近連絡を取り合い、今後「私立小学校研究」を共同で進めていく予定です。

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『名門小学校 最高の授業』
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鈴木隆祐著

学研新書、2009年

著者略歴(本書より)
1996年長野県生まれ。法政大学文学部日本文学科在学中より雑誌・ムックなどの編集、制作、著述を手がけ、現在は週刊誌などを中心に、教育をはじめ流通業など、広い意味でのサービスをテーマとし、多くの記事執筆に携わる。主な著書に『名門中学 最高の授業』『授業で選ぶ中高一貫校』(いずれも学研刊)など。

目次
はじめに
第一章    変わりつつある私立小学校の存在価値
第二章    名門小学校の授業-伝統校の場合
        青山学院初等部
          自由闊達さの中で展開される骨太の人間教育
        聖心女子学院初等科
          美智子皇后を育んだ、凛として飾らないカトリック校
        学習院初等科
         その歴史自体が“教科書”という学校の変革
        立教小学校
         共生力を育む英語で新たな一貫教育を切り拓く
    東洋英和女学院小学部
     最もミッション校らしい女子校の、人の力を引きつける力
    東京女学館小学校
     伝統のお嬢さん校の意外な伸びやかさ
    国立学園小学校
     わんぱく絶対肯定の校風で伸びる学力
    和光小学校
     民主主義を体で感得する、自由教育の殿堂
    同志社小学校
     教師個人の個性も尊重される、独立独歩の学園
    関西学院初等部
     積み上げたイズムをシフトチェンジしての出発
第三章 ニューウェーブ私立小をめぐる
    カリタス小学校
     カトリックながら、教育の独自性はピカイチ
    洗足学園小学校
     100%中学受験のサポート体制が評価され、人気上昇
    聖ドミニコ学園小学校
     少数派男子が進学でも健闘する、瀟洒なカトリック校
    聖徳学園小学校
     パズルとゲームで脳を刺激する英才教育
    宝仙学園小学校
     若手と老練の調和のとれた教諭陣が一枚岩となる校風
    西武学園文理小学校
     “熊”たちに護られたお城は新たな小学校教育の実験場
    開智学園総合部
     一貫部との連携を図りながら、外部受験も奨励
第四章 私立小“お受験”の実際
おわりに

鈴木隆祐|Facebook
https://ja-jp.facebook.com/suzuki.ryusuke

 

 鈴木氏と初めてお会いしたのは、『名門小学校 最高の授業』出版のため聖心女子学院初等科での取材時でした。11月の下旬であったと思います。いくつかの授業を取材され、当時6年生を担任していた私のクラスを訪問されました。取材は社会科の歴史の授業で、最後の「平成の時代」でした。私個人はメディアでの取材は多く受けてきて新聞やテレビなどはきちんとした取材が当たり前という意識でした。しかし、雑誌などでの学校紹介の取材はどのクラスもほんの数分見て丁寧さに欠ける記事がいくつかありましたので、今回もそのような取材かと思っていました(この時聞いていたのは雑誌の取材ということで、書籍という話は知りませんでした)。ところが、鈴木氏は1時間の授業まるまる取材し、授業後も丁寧な質問をされていました。丁寧な授業取材を通して、私立小学校の一端を知ることができる貴重な書籍です。多くのことが学べます。
 慶應義塾幼稚舎は授業取材には応じていないので掲載はされていません。筆者が本書で述べています。
 実に丁寧な取材が行われています。私立小学校の授業をこれほど詳細に記述されている書籍は読んだことがありません。2009年発行ですので、ICTやオンライン授業など最新の授業情報は掲載されていませんが、それぞれの学校の特徴がよく表現されていると思います(私は東京が中心ですが、多くの私立小学校の授業を参観しています)。私立小学校には多くのユニークな行事やスケジュールがありますが、やはり授業の質がそれぞれの学校での特徴になっています。ぜひ一読をお薦めします。
 私の授業での取材は、以下のように文章化されています。歴史の「平成の時代」の授業です。

 新聞をうまく活用し、充実した社会
  「社会科の授業も相当に内容充実、かつ運びも理詰めだった。六年バラ組の授業では、教諭がのっけに『昭和天皇崩御』という大見出しの新聞を見せる。二〇年の歳月を感じさせる色褪せた紙面に懐かしさが込み上げるが、児童らは初見だろう。すると教諭は立て続けに、『日朝会談』『拉致被害者帰国』『兵庫での脱線事故』など平成に起きた大事件の新聞一面、イラクのフセイン元大統領逮捕の号外も披露した。教諭は新聞を教育に生かす、日本NIE学会理事でもあるのだ。もちろん、使われる新聞は一紙に限らないため、これはリテラシー教育にもつながっている。
 まだ、幼い頃の事件についての解説にも、何人かの児童は『はっきり覚えている』と返す。福田前首相の辞任の際などに、実際に号外をもらったというのも、都会の学校に通う子ならでの体験だ。
 『では、今年の大事件として他になにが挙げられるかな?』と教諭。
 『北京オリンピック』『日本人三人がノーベル賞受賞』『世界恐慌』『オバマ大統領』……
と児童ら。
 そこで教諭は『オバマ大統領になってよかったと思う人?』と挙手を求めると、『黒人だからアジア人には共感があるはず』『ハーバート大出だから』『ブッシュが二期続いたのでバランス的に』と理由は様々だが、クラスのほとんどが手を挙げた。そこで、その日の本題。アメリカ黒人史の確認を、これもまた新聞報道を手がかりに追っていく。これもキング牧師の有名な演説『私には夢がある』の全文を読ませるなど、かなり高度だ。」(74~75頁)

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『「考える力」を伸ばす AI時代に活きる幼児教育』
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久野泰可著

集英社新書、2019年

著者略歴(本書より)
1 1948年、静岡県生まれ。横浜国立大学教育学科を卒業後、現代科学研究所に勤務し、1986年、幼児教育実践研究所「こぐま会」代表に就任。常に幼児教育の現場に身を置き、その実践と通して作り上げた独自のカリキュラム「KUNOメソッド」は中国、韓国、ベトナム、タイ、シンガポールなどの幼稚園・教室で導入されている。著書に『子どもが賢くなる75の方法』(幻冬舎)『3歳からの「考える力」教育』『間違いだらけのお受験』(ともに講談社)など。

 私立小学校に入学するのには、入学試験があります。「お受験」という言葉が定着しています。私立小学校の教員は「お受験」に合格した幼児を受け入れ教育をしているのです。ですから、私立小学校研究には「お受験」の実態を研究していくことは不可欠です。しかし、その実態はそれほど明確になっていません。「お受験」教室がいくつあるのか把握されているのでしょうか。大小多様な形態があるので、不明確だと考えられます。また、各私立小学校では編入試験を実施している学校もあります。その編入試験に対応した塾というものもあります。
 多くの幼児教室はホームページを開設していますので、そこを手がかりに幼児教室の実態をある程度明確にしていくことができます。しかし、ホームページは宣伝的な意味もありますので、必ずしも研究の対象にならないこともあります。そこで、前記の教育経済学者・経済学者、ジャーナリスト、後記の教育学者と同様に、執筆された書籍を手がかりにして幼児教育実践者からの道しるべにしたいと思います。
 幼児教育実践者の中には、自分の教育論を明確にして実践をしてその成果を出版している方もいらっしゃいます。そのような方の中から、ある一人の方に注目しています。その方は、こぐま会代表の久野泰可氏です。紹介する著書の略歴にあるように、実践が海外で導入されていること、著書が所属している幼児教室以外での出版社から多数出版されていることなど、研究できる要素をたくさんお持ちになっていることが注目している理由です。幼児教育の理論がしっかり確立されていることが大きな特徴です。有名私立小学校に何名合格させたかということではなく、幼児教育の理論や実践の質を問う時代に向かうべきだと思います。

目次
はじめに
第1章    日本の幼児教育の問題点
   ヘックマン教授が指摘した幼児教育の重要性
   世界から後れをとる日本の幼児教育
   教える側がかかえる問題
   幼児期にこそやるべきことは何か
第2章    本当に必要な幼児教育とは何か
   「KUNOメソッド」はどのようにしてできあがったか
第3章    進化する幼児教育―「KUNOメソッド」
   「KUNOメソッド」を支える基本理念
    1 教科前基礎教育―将来の算数や国語の基礎となる学習
    2 事物教育―教え込み主義教育の対極にあるもの
    3 対話教育―理解度と考え方の根拠を対話で確認
   「聴く・話す」力が大事
第4章 学力よりも意欲の時代へ―小学校受験も変化している―
   学力偏重の弊害
   小学校入試が変わってきている
   非認知能力をどう育てるか
第5章 幼児教育が目指すゴール
おわりに

こぐま会のホームページ
http://www.kogumakai.co.jp/

週刊こぐま通信 「室長のコラム」目次
http://www.kogumakai.co.jp/column/president/index.html

 

  久野泰可さんの幼児教育の理念や実践について書かれたコラムです。このコラムは長期に渡って連載されていたもので、幼児教育における理論と実践の融合の大切さが実感できます。


 本書には、久野泰可氏の幼児教育に関する考えと実践が述べられています。ぜひ一読されることをお奨めします。私なりに久野氏の特色を次のようにまとめてみました。

ポイント1 日本の幼児教育の問題点を明確にしている。
第1章 日本の幼児教育の問題点
    「先生の質はどう保たれるのか」「どんな教材・教具を使うのか」は世界中の幼児教育で課題になっているとします。そして、幼児教育制度に小学校とのつながりがまったく見られないことが問題点としてあげられています。
    「実は子どもは、幼児期の家庭環境や生活の仕方によって、小学校入学時の4月にはすでに学力差がついているのです。『幼児のうちは身体を丈夫にして楽しく過ごし、勉強は小学校に入ってから』という考え方は、このように間違っていたことが実証済みで、そういった事態を再度起こさせないためには、小学校の教科を見すえた幼児教育を準備しなければならないのです。」(25頁)
    このように捉えますと、お受験塾も私立小学校に合格するためではなく、小学校に入ってどのように伸びていくかを見据えた教育の機関としての役割が求められるのです。
    ヘックマン教授が指摘した幼児教育の重要性として、「幼児教育が一生左右する」「幼児教育がもたらす経済的効果」「非認知的教育が日の目を見た日」と3つの視点から指摘しています。

ポイント2 久野氏は教育の理論を実にしっかり学んでいる。
第2章 本当に必要な幼児教育とは何か
 モンテッソリーから学ぶ―感覚教育・集中現象
 ピアジェから学ぶ―「可逆的な思考を育てる」こと
 ブルーナーから学んだ―「らせん型教育カリキュラム」
 ヴィゴツキーの「最近接領域」―教育には背伸びが必要
 遠山啓―「原教科」という教え
 この5人から多くのことを学び幼児教育の原点にしています。お受験の実態を教育学的に考えていくことに、それぞれのお受験塾の幼児教育にどのような理論的な背景があるかは1つのポイントになります。

ポイント3「KUNOメソッド」の確立。
第3章 進化する幼児教育―「KUNOメソッド」―
 ポイント2の教育の理論に基づき、久野氏は独自の「KUNOメソッド」を開発されました。教科前基礎教育、事物教育、対話教育の3つの基本理念があります。それぞれの理念を紹介します。
  教科前基礎教育―将来の算数や国語の基礎となる学習
 6つの学習領域を設定しています。
  「将来の教科学習へのつながりかを考え、算数科の基礎となる『未測量』『位置表象』『数』『図形』の4領域、国語科の基礎となる『言語』、そして、生活科(昔の理科・社会)の基礎としての『生活』でその内容を積み上げていきます。」(112~113頁)
 事物教育―教え込み主義教育の対極にあるもの
 事物に触れ、働きかけてこそ、本当の知識が身に付くことを三段階学習法として具体化していきます。
 1 身体を使った集団での活動
 2 手を使い、ものごとに働きかける個別学習
 3 ワークブックを使ったくり返しのトレーニング
 対話教育―理解度と考え方の根拠を対話で確認
 子どもが自分の思考のプロセスを言語化することができるかどうか
 あるテーマをめぐって子ども同士で話し合いができるかどうか
「聴く・話す」力が大事
 「『読み・書き』に流れがちないまの教育を、もう一度根底から疑ってみる必要があるかもしれません。」(147頁)
 このことは、長年私立小学校で教えてきたものとして賛同できる意見です。

ポイント4 非認知能力の育成を重視する。
第4章    学力よりも意欲の時代へ―小学校受験も変化している
 久野氏は認知能力を育てる過程で非認知能力も育てることを大切にしています。
 「幼児の場合、認知能力と非認知能力を区別し、一方は「学習」、一方は「活動」というように、まったく別物として分けて考えてしまうと大事なものを見失う危険性があるばかりか、非認知能力の理解が薄っぺらなものに終わってしまいます。認知能力を育てる過程で非認知的能力も育てるという発想が必要です。特に幼児の場合、学習態度の育成は考える力の獲得と同じくらい大事な課題だと思います。」(169頁)
 そして、非認知能力を育てる6つのコツをあげています。
1 一方的な知識の教え込みは行わない。
2 成長段階に合わせて、学習内容を適切に定める
3 学ぶことの楽しさを伝えるために、事物教育を徹底させる。
4 集団活動を取り入れながら、良い意味での競争心を育てる。
5 考えたことや感じたことを言葉で表現する機会をたくさん与える。
6 何よりも学ぶ意欲をどう育てるか、最後までやりぬく姿勢をどう育てるか。(170頁)

ポイント5 幼児教育のゴールを設定している
 久野氏は幼児教育のゴールを次のように設定しています。
 「こぐま会では小学校入学後にはじまる教科学習の基礎をしっかり身につけることを目的として、教室での指導を行なってきました。決してどこかの学校に入るための特別なトレーニングではありません。どこの学校に入学しても主体的に学んでいける姿勢と、応用課題を受け止める学力の基礎をしっかり身に付けることを目標にしているからです。」
(175~176頁)
 私立小学校に合格するためだけの幼児教育ではなく、その後の学校でのまたは社会での活動にとって必要な学力と資質の基礎を育成することを大切にしているのでしょう。

  久野氏は、日本の幼児教育の問題点を的確に捉え、多様な教育理論に学び、「KUNOメソッド」という独自の教育方法を確立し、非認知能力の育成を重視し、幼児教育のゴールを明確に設定しているのです。
  『間違いだらけのお受験』(2001年、講談社)『3歳からの「考える力」教育』(2006年、講談社)『子どもが賢くなる75の方法』(2014年、幻冬舎エデュケーション)などの著書からも多くのことを学べました。
  私はぜひこの教育現場を実際に観てみたい意欲に満ちています。

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『〈お受験〉の社会史 都市中間層と私立小学校』
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小針 誠著 

世織書房、2009年

著者略歴(本書より)

1973年、福島県生まれ(栃木県育ち) 1997年、慶應義塾大学文学部卒業(教育学専攻)
2003年、日本学術振興会特別研究員(PD) 2005年、東京大学大学院教育学研究科博士課程修了(教育社会学専攻)現在、同志社女子大学現代社会学部現代こども学科准教授
著書に『教育と子どもの社会史』(梓出版社、2007年)。論文に「階層問題としての小学校受験志向」(日本教育学会『教育学研究』第71巻第4号、2004年)。「公立学校不信の構造」(『同志社女子大学学術研究年報』第59巻、2008年)などがある。

目次
序論
  1 問題の所在
  2 本書の研究対象
  3 先行研究の検討と本研究の分析視角
  4 研究の方法
  5 本書の構成
第一部    私立小学校の入学志向と存廃条件
  第1章    私立小学校の誕生と存続条件
   1 私立小学校の誕生と存続条件
   2 私立小学校の入・在学者の社会的背景
   3 私立小学校の存続条件
   4 私立小学校の四類型
  第2章    私立中・高等教育機関の動向と併設の小学校への影響
   1 私立中・高等教育機関の社会的評価
   2 併設小学校への影響
   3 一貫教育の制度化と私立小学校の自己保存
  第3章    私立小学校・入学家族の教育戦略
   1 新中間層の教育要求と私立小学校志向
   2 人格形成と私立小学校志向
   3 階層再生産における学歴主義とアスピレーションの〈保温効果〉
   4 私立小学校と保護者の教育意識の親和性
  第4章    淘汰された私立小学校
   1 「私立小学校協会」の成立と頓挫
   2 私立小学校の廃校
   3 私立小学校存廃の分水嶺
第二部    私立小学校の入学選抜メカニズム
  第5章    入学選抜考査の導入
   1 入学選抜考査導入以前の入学者決定のプロセス
   2 少人数教育と入学選抜考査との関係
   3 児童募集の方法
   4 入学選抜考査の様相
   5 二重の選抜過程
  第6章    〈目に見えない入学選抜考査〉における能力と評価
   1 児童心理学における知能研究の制度化とメンタルテストの導入
   2 〈教育的〉な入学選抜考査
   3 〈目に見えない入学選抜考査〉とは何か
   4 誰が私立小学校に〈合格〉したか
   5 入学選抜考査のイデオロギー
  第7章    入学選抜考査と家族・子ども
   1 家庭における入学準備教育
   2 入学準備教育と幼稚園との位相
   3 入学準備教育のその後―幼児受験教室を経由した小学校受験の成立
   4 私立小学校入学をめぐる言説とその社会問題化
   5 入学選抜考査に従属する家族と子どもの社会化
  第8章    入学選抜考査の陰謀
   1 縁故入学制度
   2 〈特殊な〉私立小学校
   3 入学者の階級的性格と選抜
   4 入学選抜考査・縁故入学制度の正当性
  結論
   1 本書の学問的意義
   2 今後の課題と展望
   3 現代日本の教育の示唆と課題
  註
  〈巻末資料〉
  引用・参考文献
  あとがき
  人名索引
  事項索引

小針氏は現在、青山学院大学教育人間学部教授
青山学院大学研究者情報
https://raweb1.jm.aoyama.ac.jp/aguhp/KgApp?kyoinId=ymdsgksyggy
  
  本書は、著者の後書きにありますように、博士論文『東京・私立小学校における入学志向と入学選抜メカニズムに関する歴史社会学的研究』(東京大学大学院教育学研究科提出/2005年3月2日に博士〈教育学〉の学位授与)に大幅な加筆修正や新たな議論を付け加え、再構成のうえ刊行されました。
  ですから、一般の私立小学校の研究に関心がある方々にとっては、歴史的な記述が中心で、かなり難解な書籍になります。一読をお薦めしますが、すべてを読み解くことをあまり意識しない方がいいかと思われます。実は私も読解することに困難さを感じ、関心があるところを読み進めていきました。特に以下の章に関心を持ちました。
    第2章 私立中・高等教育機関の動向と併設の小学校への影響
    1 私立中・高等教育機関の社会的評価
    2 併設小学校への影響
    3 一貫教育の制度化と私立小学校の自己保存
    第4章 淘汰された私立小学校
    1 「私立小学校協会」の成立と頓挫
    2 私立小学校の廃校
    3 私立小学校存廃の分水嶺
    第8章 入学選抜考査の陰謀
    1 縁故入学制度
    2 〈特殊な〉私立小学校
    3 入学者の階級的性格と選抜
    4 入学選抜考査・縁故入学制度の正当性
   また、〈巻末資料〉〔資料3〕私立小学校関係史年表(1867年~1950年)で私立小学校設立の歴史を概観することができます。さらに、最後の「事項索引」を見ていくと、多くの私立小学校の校名が出てきます。例えば、慶應義塾幼稚舎は26カ所の索引箇所があります。関心のある学校がどのような頁に出てきて、どのようなことで取り上げているのか調べてみる方法もあります。
    難解な書籍の読み方もいろいろな工夫が求められます。

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『<お受験>の歴史学 
 選択される私立小学校 選抜される親と子』
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小針 誠著 

講談社、2015年

目次
はじめに
第1章    私立小学校の現在
 1 「私立小学校」とは何か
 2 プレップ・スクールから見た日本の私立小学校
第2章    誕生、そして入学選抜の導入―明治期~1930年代―
 1 私立小学校の誕生
 2 併設上級小学校と一貫教育
 3 新中間層の私立小学校志向
 4 入学選抜考査の導入
第3章    死と再生―1930年~70年代―
 1 学校存廃の分水嶺
 2 戦争と私立小学校
 3 私立小学校の戦後体制
 4 戦後の入学考査
 5 70年代の私立小学校志向と受験戦争
第4章    〈お受験〉〈お入学〉の時代―1980~2002年―
 1 「お入学」「お受験」としての小学校受験
 2 国立・私立小学校を志向する家族と社会階層
 3 学校選択と入学志向
 4 公立不信としての私立小学校志向
第5章    私立小学校と〈お受験〉のゆくえ―2002年~―
 1 二極化する私立小学校
 2 変わらない私立小学校・変わる公立小学校

主要参考文献
あとがき
索引

 本書は平成27年度科学研究費補助金・基盤研究(C)「公共非営利組織としての私立小学校の経営問題に関する日英比較教育社会学的研究」(研究代表者・小針誠)による研究成果の一部とされています。
 小針氏の前著作に比べ、本著は一般の人にもメッセージを送ることがメインになり、読みやすさが格段に意識されています。タイトルに『〈お受験〉の歴史学』とあるように、歴史的な考察が多くを占めています。1981年私立小学校の教員になった私にとっては、
第6章    〈お受験〉〈お入学〉の時代―1980~2002年―
 1 「お入学」「お受験」としての小学校受験
 2 国立・私立小学校を志向する家族と社会階層
 3 学校選択と入学志向
 4 公立不信としての私立小学校志向
第7章    私立小学校と〈お受験〉のゆくえ―2002年~―
 1 二極化する私立小学校
 2 変わらない私立小学校・変わる公立小学校
により関心がありました。教員時代とこれから、私立小学校はどのように変化していくのか見ていく視点を提供していただきました。また、前作同様に、索引がありますので、関心のある私立小学校がどのように取り上げられているか考察することも可能です。
 研究者として文献を中心に歴史的に考察されている関係で、現代の私立小学校の実践については言及されていません。小針氏が現代の私立小学校の実践、特に授業を観察されたらどのように記述されるのか、関心があります。
  小針氏はあとがきの中で、次のように述べられています。
 「筆者はこれからも私立小学校に関連したテーマで研究を継続していくことになるだろう。これまでと同様に、教育学、歴史学、社会学など幅広い学問分野の理論と方法を学際的に活用しながら、学校選択や入学選抜の問題に加えて、思想、制度、実践、人物についても研究を深め、総合的な私立小学校研究の完成を目指したい。」
 ぜひ、私は多くのことを学んでいきたいと思います。

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『現代日本の私立小学校受験
 ペアレントクラシ-に基づく教育選抜の現状』
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望月 由起著

学術出版会、2011年

著者略歴(本書より)

2004年 お茶ノ水女子大学大学院人間文化研究科博士後期課程単位取得満期退学2005年 博士(学術)Ph.D.In Sociology2004年~2010年 横浜国立大学大学大学教育総合センター入学者選抜部専任講師を経て准教授2010年~現在 お茶の水女子大学学生支援センター(キャリア支援センター兼担)准教授著書:『進路形成に対する「在り方生き方指導」の功罪―高校進路指導の社会学』2007年、東信堂『キャリア研究を学ぶ―25冊を読む』(共著)2009年、泉文堂

目次
まえがき
序章 問題の所在
第1章 私立小学校に通う子どもたち
 1 私立小学校の学習費
 2 私立小学校の児童数の推移
 3 私立小学校のみられる地域
第2章 現代の私立小学校
 1 私立小学校の推移
 2 私立小学校の所在地の偏り
 3 私立小学校のおかれた社会的文脈の変化
第3章 私立小学校の多様性
    ―「小学校卒業後の進路」に着目して
 1 併設上級学校への性別による「進学資格」
 2 外部中学への進学状況
 3 「小学校卒業後の進路」による私立小学校の類型化
 4 「小学校卒業後の進路」類型による私立小学校の実像
 5 「小学校卒業後の進路」類型による受験者側のニーズの量と質
第4章 私立小学校受験の現状
 1 誰が受験をするのか
 2 なぜ受験をするのか
 3 どのように受験をするのか
 4 子どもとの日常的なかかわり
第5章    小学校受験の影響に対する認識
 1 子ども(受験児)への影響
 2 家族や親への影響
第6章    私立小学校受験家庭の教育観・進路観・社会観
終章 今後の課題と展望
参考文献
あとがき
索引

望月氏は現在、日本大学文理学部教育学科教授
日本大学研究者情報
http://kenkyu-web.cin.nihon-u.ac.jp/Profiles/149/0014839/profile.html

  本書は、科学研究費補助金若手研究者(B)「受験(準備)の低年齢化に対する教育社会学的研究」の研究成果の一部とされます。
  本書の意図として「私立小学校受験家庭に目を向けるのみならず、彼らが入学することを望む私立小学校についても、個々の学校を事例的に紹介するのではなく、『現代日本の私立小学校』というマクロな視点から捉えなおすことを
  試みている。それにより、私立小学校に対するイメージとその実像のギャップについても、読者の皆さんに確かめていただきたい。」とまえがきに書かれています。
  小針氏と同様に望月氏も教育社会学者です。望月氏は「ペアレントクラシ―」を軸に本書を構成しています。ペアレントクラシ―とは親や保護者の教育への関心と積極的な教育支援によって左右される社会の仕組みとされます。確かに私立小学校はペアレントクラシ―が大きな役割を果たす場所ということができます。ぜひ、一読を進めたいと思います。

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『教育格差 ──階層・地域・学歴』
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松岡亮二著

筑摩書房 、2019年

著者略歴(本書より)

ハワイ州立大学マノア校教育学部博士課程教育政策学専攻修了。博士(教育学)。東北大学大学院COEフェロー(研究員)、統計数理研究所特任研究員、早稲田大学助教を経て、現在同大学准教授。国内外の学術誌に20編の査読付き論文を発表。日本教育社会学会・国際活動奨励賞(2015年度)、早稲田大学ティーチングアワード(2015年度春学期)、東京大学社会科学研究所附属社会調査データアーカイブ研究センター優秀論文賞(2018年度)を受賞。

目次
はじめに
第1章    終わらない教育格差
 1 親の学歴と子の学歴
 2 出身地域による学歴格差
 3 意識格差―「大衆教育社会」から「階層化社会」へ
 4 階層と「不利な状況」の打破
 5 時代を超えて確認される格差構造
第2章    幼児教育―目に見えにくい格差のはじまり
 1 これまでにわかっていること
 2 異なる子育てロジック
第3章    小学校―不十分や格差縮小機能
 1 子育ての階層格差〈個人水準の格差〉
 2 学校・地域の格差〈集合水準の格差〉
第4章    中学校―「選抜」前夜の教育格差
 小学校時代の経験蓄積格差
 1 階層格差〈個人水準の格差〉
 2 学校・地域の格差〈集合水準の格差〉
第5章    高校―間接的に「生まれ」で隔離する制度
 制度的に作られる学校間SES格差
 1 「能力」による生徒の分離―学校間のSES格差
 2 制度的に拡大された教育「環境」の学校間格差
第6章    凡庸な教育格差社会―国際社会で浮かび上がる日本の特徴
 1 すべての社会に格差は存在する
 2 義務教育の「答え合わせ」
 3 「効率」を追求する高校教育制度
第7章    わたしたちはどのような社会を生きたいのか
 1 建設的な議論のための4カ条
 2 〈提案1〉分析可能なデータを収集する
 3 〈提案2〉教職課程で「教育格差」を必修に!
 4 総括―未踏の領域
おわりに
註記
引用文献

 早稲田大学准教授の松岡亮二氏の著作『教育格差―階層・地域・学歴』が話題になっています。ツィッターでも多くの方の意見が見られます。表紙カバーには「出身家庭と地域という本人にはどうしようもない初期条件によって子供の最終学歴は異なり、それは収入・職業・健康など様々な格差の基盤となる。つまり日本は『生まれ』で人生の選択肢・可能性が大きく制限される『緩やかな身分社会』なのだ。本書は、戦後から現在までの動向、就学前~高校までの各教育段階、国際比較と、教育格差の実態を圧倒的なデータ量で検証。その上で、すべての人が自分の可能性を活かせる社会をつくるために、採るべき現実的な対策を提案する。」とあります。本書の内容をコンパクトにまとめています。教育社会学者の視点で、多様で大量のデータを駆使して教育格差の状況を明らかにしているのです。データが多くて一般の方には馴染みにくいかもしれませんが、ざっと目を通すという感覚で読んでいただければと思います。

  『朝日新聞』2020年5月20日の朝刊で松岡氏が教育格差について語っています。その部分を引用します。
  「コロナ禍で『子どもたちに教育格差が生じる』といった声を耳にしますが、『生まれ』による格差は以前から存在します。
  国内外の研究によれば、親の最終学歴や収入といった社会経済的な地位によって子どもの教育に差があります。大卒の親は安定した生活リズム、絵本の読み聞かせ、テレビ・ゲーム時間の抑制、多様な習い事や塾の利用、子どもの大学進学への期待、積極的な学校への関与といった『意図的な子育て』をする傾向にあります。学校内外で望ましい能力や態度などを積極的に養おうとするわけです。また、社会経済的地位によって居住地域に偏りがあるので、公立小学校間には、平均学力や将来大学進学を前提とするのが普通かどうかなど、様々な違いがあります。
  子ども本人が選べない出身家庭や出身地域といった生まれによって、学力や最終学歴などの教育成果に差がある傾向を『教育格差』と呼びます。多少の変化こそあれ戦後すべての世代・性別において、データで確認されてきました。日本は生まれによって子どもたちが無限の可能性を十分に追及できていない『教育格差』を維持しているのです。」
  高校まで公立学校で育った私には、周りに多様な家庭で育った子どもがいました。小学校の時代、裕福な家庭では子どもがおけいこや塾などに通っていました。私は毎日遊んでいておけいこや塾など一切行ったことがありませんでした。ですから「教育格差」はある意味で当たり前の現象と子どもでも理解していました。しかし、私が育ってきた時期はまだ日本はそんなに豊かな時代ではなかったので、今ほど「教育格差」が広がっている感覚はなかったようです。
  それでは、高学歴で社会経済的な地位が高い保護者が受験を希望している私立小学校では「教育格差」はないのでしょうか。私が勤務し始めた40年程前には、確かに系列の中高に進学できない子どもが何人かいましたが、その後も充実した学校生活を送り、現在もたまに会うと楽しかった小学校生活や現在の生活を語ってくれます。ところが、10年ぐらい前からでしょうか、小学校生活に十分溶け込めず、その後の進路にも悩む子どもの存在が目立つようになってきました。東京の私立小学校の研究仲間とこの点を話すと同様なことが見られることを何人かに聞きました。数は多くはないのですが、私立小学校における「教育格差」の兆候が見られるようになってきたのです。それも比較的低学年から見られるのです。原因がどこにあるのかは明確ではありません。複合的な要因かもしれません。幼児教育の変化、学校や教師の変化、家庭の変化、子ども自身の変化などエビデンスがありません。ただ、1つだけ思い当たることがあります。
 高学歴で社会経済的な地位が高い保護者ではあるのですが、受験前の幼児の時期、入学後の児童の時期に親子と子どものコミュニケーションが十分とれていないのではないかという仮説です。そして、コミュニケーションの中でも基本となる「聴く力」が親子とも十分でないのではないかということです。確かに最近低学年の子どもから高学年の子どもまで「聴く力」が弱いことを実感していました。決してエビデンスはありません。私の体験からの仮説です。親子の「聴く力」を踏まえたコミュニケーション力の育成が私立小学校における「教育格差」に対応する一つの手段かと思われます。
 

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『子ども・パートナーの心をひらく「聴く力」』
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辰由加著

秀和システム 、2017年

著者略歴(本書より)

 キャリアコンサルタント技能士・傾聴カウンセラー 傾聴カウンセラー協会代表/NPO法人Smileup代表理事 1963年、東京都三鷹市生まれ。23歳で結婚、37歳で離婚。シングルマザーとして3人の子どもを育てあげた。子どものいじめや非行で悩み、離婚後も大学や養成講座などで「傾聴」を学び、「聴く」のパワーを広める活動を始める。
2011年11月より活動してきた「傾聴講座・カウンセラー養成講座」の卒業生の活動の拠点として2014年NPO法人Smaileupを起業。昼間は企業のキャリアコンサルタントや研修講師・人事・経理として働く傍ら、「ただ聴いて欲しい」人の場所として、傾聴カウンセリングルームを2015年調布に構え、平日夕方や週末、時間の許す限り傾聴カウンセリングを実施している。

目次まえがき 傾聴が私たち家族を救ってくれた
第1章    ただ「聴く」だけで関係は変わる
        1 「息子の話を聴ける母親」になりたい
        2 「家族に対してカウンセリングはできない」のが定説
        3 「息子のために」は、実は「自分のため」
        4 中学生になった息子の反乱
        5 「聴く」チャンスを逃さないために準備したこと
        6 わずか5分の「傾聴」が息子との関係を変えた
第2章    相手の気持ちに寄り添う「聴き方」の基本
        1 話し手の秘密を守る
        2 「話したい」と思わせる環境と関係をつくる
        3 相手を主人公にして「聴く」
        4 ジャッジやアドバイスをしない
        5 相手を無条件に肯定する
        6 「同感」せずに「共感」を持って聴く
        7 興味本位の質問はしない
        8 答えは相手の中にある
第3章    すぐ実践できる「聴く」ための技法
        1 「徹底的に聴いている」ことを相手に伝える技術
        2 うなずき、あいづちを打ちながら、相手の感情を拾う
        3 事柄と感情は分けて聴く
        4 話を要約し、まとめて言い返す
        5 「要約」の練習をする
        6 相手を認める、相手を褒める
        7 質問するときには相手の心の準備をさせる
第4章    「聴く」ことのできる自分をつくる
        1 カウンセリング三条件の一つ「自己一致」とは
        2 「今、この瞬間の自分の感情」のつかみ方
        3 自分を理解し、判断の基準を広げよう
        4 自分の長所・短所を見つける
        5 自分の思い込みにきづこう
        6 主観から客観へ視点を変える
        7 不安から自分を守る「防衛機制」を知っておこう
        8 「たてまえ」と「為の本音」と「本当の本音」
        9 伝える時は人を傷つけない「Iメッセージ」を使おう
        10 自分の今の感情をつかむ~モヤモヤはどこから来る?
        11 「心配の愛」ではなく「信頼の愛」を
        12 相手にOKを出せたら、自分にもOKを出そう
第5章    「聴く」という愛でつながろう
        1 信じることから始めよう
        2 「傾聴を学ぶこと」の本当の意味
        3 聴くために自分を変える必要はない
        4 聴く側も自分の声を聴くことができる
        5 肉親の話を聴けなかった経験から得たもの
        6 ただ聴いてくれる存在の大切さ
あとがき1 「聴ける自分をつくる」とは、自分を愛し、大切にすること
あとがき2 「だっこしてくだしゃ~~い(号泣)」
      おねがいですぅ~~。おかぁ~~しやぁ~~ん。

傾聴カウンセラー
 私が傾聴カウンセラーという言葉を初めて知ったのは、『朝日新聞』2017年1月3日朝刊の東京版の記事でした。引きつけられた見出しには「多様な生き方 認め合う」「本音引出す『傾聴』」、『気づき』を後押し」とありました。傾聴カウンセラー辰由加氏のことが紹介されていました。記事に次のような文章が掲載されていました。「『傾聴』は、自分を鏡のようにして相手の話を聴くことで、相手が自分自身と向き合い、意思決定ができるように促す技法だ。引っ込み思案な長男はいじめを隠すことが多く、本音を知りたいと思っていた辰さんは、長男が小学生の頃から学んでいた。」辰由加氏は2014年に傾聴を手がけるNPO「スマイルアップ」を設立し、代表理事を務めながら傾聴カウンセラーとして活動をしています。家族の問題を傾聴して意思決定できるように導くという経験が背景にあるようです。「辰さんの元には様々な人がやってくる。家族の悩みを抱えた人。がん患者。著名人もいるという。共通するのは話せる相手がいないことだ。親しいからこそ、言えないこともある。『私たちはいったいどれだけ、目の前の人をそのまま、受け入れているのだろう』。かつて長男に怒ってばかりだった自身を振り返り、そう思う。」とあります。私はこの「『私たちはいったいどれだけ、目の前の人をそのまま、受け入れているのだろう』。」という言葉に注目しました。親子のコミュニケーションを育てるには「目の前の人をそのまま、受け入れている」ということがキーワードではないでしょうか。
記事には傾聴されている辰由加氏の写真が載っていました。その写真のキャプションには「アドバイスはせず、寄り添うように話を聴く。相談相手自身が答えを見つけると信じて」とありました。
 その後、辰由加氏は本を出版されました。『子ども・パートナーの心をひらく「聴く力」』秀和システム、2017年。です。目次を少し詳しく紹介しますので、ぜひ一読されることをお薦めします。
 その本の中で、第1章2に「『家族に関してカウンセリングはできない』のが定説です」というところがあります。その中でカウンセラー養成講座の先生が次のような理由を話していました。「近親者とは心配事や困りごと、悩みを共有していることが多いため、つい問題を解決してあげたくなり、アドバイスや善し悪しの判断をしがちだからです。」「家庭内では、話し手と聴き手の間に『ラポール』と呼ばれる相互信頼関係を形成するのがとても困難だからです。」「相手の悩みは、自分に原因があることが多い」。心理的に大きな課題をかかえていらっしゃる方に近親者がカウンセリングを行うことには困難でしょう。ここでは、そこまでの段階ではなく日常の家族のコミュニケーションを家族でどのように捉えたらいいのかの方向を考えているのです。
 偉そうに紹介している私ですが、家内や娘から「聴く力ができていない」とよく注意されています。辰由加氏の本を身近において何度も読んでいます。私も勉強中です。

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『NGから学ぶ 本気の伝え方―あなたも子どものやる気を引き出せる!』
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宮口幸治・田中繁富著

明石書店、2020年

著者略歴(本書より)

宮口幸治

立命館大学産業社会学部・大学院人間科学研究科教授。医学博士、日本精神神経学会専門医。子どものこころ専門医、臨床心理士、公認心理師。京都大学工学部卒業、建設コンサルタント会社勤務の後、神戸大学医学部医学科卒業。大阪府立精神医療センターなどを勤務の後、法務省宮川医療少年院、交野女子学院医務課長を経て、2016年より現職。児童精神科医として、困っている子どもたちの支援を教育・医療・心理・福祉の観点で行う「日本COG-TR学会」を主宰し、全国で教員向けに研修を行っている。
著書に『教室で困っている発達障害をもつ子どもの理解と認知的アプローチ』『性の問題行動をもつ子どもの理解と認知的アプローチ』『教室の「困っている子ども」を支える7つのてがかり』(以上、明石書店)、『不器用な子どもたちへの認知機能強化トレーニング』『コグトレみる・きく・想像するための認知機能強化トレーニング』(以上、三輪書店)、『1日5分!教室で使えるコグトレ困っている子どもを支援する認知トレーニング122』『もっとコグトレさがし算60初級・中級・上級』『1日5分教室で使える漢字コグトレ小学1~6年生』『学校でできる!性の問題行動へのケア』(以上、東洋館出版)、『ケーキのきれない非行少年たち』(新潮社)などがある。

目次
はじめに
本書のねらい
第1章    心理編 心理的に気持ちを落ち込ませるNG
        ケース1 親の考えを押し付けてしまう
        ケース2 余計な前置きを言ってしまう
        ケース3 やる前に言ってしまう
        ケース4 友だち関係に口出しする
        ケース5 プレッシャーをかけてしまう
        ケース6 失敗の後のダメ出し
        ケース7 返事を真に受けてしまう
        ケース8 最初から疑ってしまう
        ケース9 負の暗示をかけてしまう
        ケース10 言い訳できなくする
        ●心理編のまとめ
        コラム①「大阪城を建てたのは大工さん」は正しい?
第2章    勉強編(一般)勉強へのやる気をなくさせるNG
        ケース1 分かることがいいと考えてしまう
        ケース2 積み重ねさせようとする
        ケース3 とことん考えさせる
        ケース4 子どもの前で先生を批判する
        ケース5 全部の問題を解かそうとする
        ケース6 焦らせてしまう
        ケース7 勉強嫌いなのは、勉強が苦手だからと考える
        ●勉強編(一般)のまとめ
        コラム②2+1=1になる?
        勉強編(教科別)
        ケース1 (国語)読書好きにさせようとする
        ケース2 (国語)本を読んだら感想文を書かせる
        ケース3 (算数)問題を速く解かせる
        ケース4 (算数)指を使って計算させない
        ケース5 (理科)まんべんなくできることを目指す
        ケース6 (理科)実験・観察結果をまとめさせる
        ケース7 (社会)社会科の学習で社会科の力をつけさせようとする
        ケース8 (社会)社会科は暗記させればできると考える
        ●勉強編(教科別)のまとめ
        コラム③分数の意味を分かっている数学者はいない?
第3章    保護者編 保護者の養育意欲を失わせるNG
        ケース1 寂しさを愛情不足と考える
        ケース2 何でもほめればいいと考える
        ケース3 家庭に原因があると考える
        ケース4 すぐに専門家につなげようとする
        ケース5 子どものためにしてほしいと思う
        ●保護者編のまとめ
        おわりに
        「コグトレ」の紹介

 新聞の書籍広告を何気なく見ていましたら、次の本の題名が目に留まりました。『NGから学ぶ 本気の伝え方 あなたも子どものやる気を引き出せる!』です。著者は、児童精神科医・医学博士の宮口幸治氏と小学校教諭の田中繁富氏です。早速購入して読みました。保護者も先生も一緒に考えて欲しいことだと思いました。
 本書のねらいは、「・大人の子どもへの不安から余計な言葉をかけ、やる気を奪う!・先生の保護者への過度の期待から保護者の不信感を生む!」そこで「・子どもの本当の気持ちを理解する・大人自身が、子どものやる気を奪っていた自分の言動に気づく・保護者へ期待をかけすぎない/追い詰めない・子どもの成長という目標を共有する・保護者と先生が協力し合い、子どもとの相互協力をはかる」ということです。保護者も先生と一緒になって取り組むことの大切さを理解し実行していきましょう。目次を読んでいくだけでもNGの心当たりが思い出されるのではないでしょうか。ぜひ、一読を。

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『毒親』
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中野信子著

ポプラ社、2020年

著者略歴(本書より)

1975年、東京都生まれ。脳科学者、医学博士、認知科学者。東京大学工学部応用科学科卒業。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。2008年から2010年までフランス国立研究所ニューロスピンに博士研究員として勤務。2015年、東日本国際大学特任教授に就任。脳や心理学の研究や執筆活動を精力的に行っている。科学の視点から人間社会の問題を分かりやすく読み解く語り口で、テレビのコメンテーターとしても活躍中。『サイコパス』(文春新書)、『キレる! 脳科学から見た「メカニズム」「対処法」「活用術」』(小学館新書)『正しい恨みの晴らし方』(共著、ポプラ新書)などベストセラー多数

目次
はじめに
第1章    子を妬む母
        毒親
        親の価値観から抜け出せない
        注目される母子関係
        妬む母―白雪姫コンプレックス
        子と競う母
        コントロールする母
        愛情が深すぎる
        母親が全員育児のプロなわけではない
        「産む親」と「育てるスペシャリスト」
        母と娘は友達じゃない
第2章    愛し方がわからない父
        父の子殺し―アブラハムのパラドックス
        父子関係のモデルが焼失した時代
        妬む父
        子どもの可能性をつぶす
        子の「勉強」は誰のため?
        子の時代が長いという弱点
        愛情ホルモン「オキシトシン」
        父親の育児脳
        アルギニン・バソプレッシンについて
        父との関係の失敗による認知のゆがみ
        性的虐待
        仲良し家族が素晴らしいという幻想から自由になるために
第3章    愛が毒に変わるとき―束縛する脳
        ≪アマン≫
        愛着の傷
        「絆」という蹉跌
        家族がつらい
        殺人事件の半数以上は親族間で起きている
        変わりつつある家族の形
        言語によるグルーミング
        人類が繁栄できた理由
        「自己犠牲を尊ぶ」という武器
        健全な社会生活を営むために必要な「社会脳」
        阿じゃ世コンプレックス
        経済合理性と共感性とは
第4章    親には解決できない「毒親」問題
        毒親育ちは毒親になってしまうのか
        ハリー・ハーロウのモンスターマザー
        毒親が傷つけるもの
        子どもの脳を委縮させる「暴力」
        愛情遮断症候群の世代間伝達
        自分を知るための「毒親」という指標
        自分を立てなおす―毒親育ちの宿命から解放されるには
おわりに

 この本もやはり新聞の書籍広告を何気なく見ていて題名が目に留まりました。『毒親 毒親育ちのあなたと毒親になりたくないあなたへ』ポプラ新書、2020年。です。毒親はどくおやと読みます。著者はテレビでもよく見る脳科学者の中野信子氏です。子どもとのコミュニケーションをどのようにとったらいいかを考えていますが、少し角度を変えて親自身の在り方を考えてみませんか。表紙には次のような言葉が書かれています。「◆親を憎んでしまうのは、自分のせい?◆なぜ、子どもを束縛したくなる?◆なぜ、愛しているのに、憎くなる?」「家族の悩みはあなたのせいではない!」「気鋭の脳科学者が『毒親』の正体とその向き合い方を分かりやすく説く。」
  ところで、毒親とはどのような意味でしょうか。「しばらく前から、『毒親』という言葉がよく聞かれるようになりました。1989年にアメリカのスーザン・フォワードが『毒になる親(原題:Toxic Parents)』というタイトルの著書を発表したことから、知られるようになった言葉です。子どもの人生を支配し、子どもの人生に悪影響を及ぼす親について、類型別に詳述されています。
  昨今は、毒親について、ある種のブームのようなものさえ形成されている感があります。子の自立という問題は、人類どころか哺乳類全般にとっての普遍的なテーマであるので、これを『ブーム』と表現することには、やや違和感がなくはないのですが。
  気づかれにくい虐待―心理的なネグレクトや、精神的な虐待、過度の干渉によって子を支配しようとするなど、まさに子どもの成長にとって『毒』となる振る舞いをする親のことを指して、このように命名されたのです。」
  ぜひ、一読をお薦め致します。

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