「学力別編成」の問題なことは、よく言われる差別・選別より「できない子」から学ぶ機会が失われることにある。現在の教育の1つの問題点は、教師から「正解」ことばかり目が向いて、「できない子」の誤りから学ぶ能力が、失われていっていることにある。
三つのものを一つに減らしてもその中の一番根本的な一つをみっしりよく理解し呑込んでしまえば、残りの二つはひとりでに分かるというのが基礎的科学の本来の面目である。そうでなくても一つのものをよく玩味してその旨さが分かれば他のものへの食慾はおのずから誘発されるのである。沢山に並べた栗のいがばかりしゃぶらせるような教科書は明らかに汽車弁当に劣ること数等であろう。 一体「教えるためには教えない術が必要である。」というパラドックスが云わば云い得られなくはない。
普通学校で第一に仕立てるべきものは未来の官吏、学者、教員、著述家でなくて「人」である。ただの「脳」ではない。プロメトイスが最初に人間に教えたのは天文学ではなくて火であり、工作であった……(寺田寅彦「アインシュタインの教育観」)