小学生からの主権者教育
―18歳成人・18歳選挙権へのパスポート―
2016年7月の参議院議員選挙から、日本では18歳選挙権が国政レベルで実施されたのです。それまで選挙権を行使できる年齢は20歳でした。世界的に見て最も遅いレベルでの18歳選挙権でした。アルゼンチンやオーストリアではすでに16歳選挙権が施行されています。
私は日本史上初めて実施される18歳選挙権に向けて、小学生から高校生まで取り組める主権者教育の出版ができないか模索し、出版社と新聞社の協力を得て『やさしい主権者教育 18歳選挙権へのパスポート』(東洋館出版社、2016年6月)を出版できました。執筆者は田中治彦氏(上智大学教授)、藤井剛氏(明治大学特任教授)、城島徹氏(毎日新聞編集委員)、町田貴弘氏(広尾学園中学校・高等学校教諭)、岸尾祐二(聖心女子学院初等科教諭)で、小島明日奈氏(毎日新聞社)、五十嵐英美氏(毎日新聞社)に協力をしていただきました(所属は出版時)。
私たちの主権者教育の理念は、18歳になる高校3年生を対象にするのではなく、小学生から高校生または大学生までを対象にすることです。そして、選挙の期間だけ投票のことを学ぶのではなく、日常時事問題や政治、選挙に関心をもち学ぶ姿勢を身につけさせたいということです。さらに、学校に限定することなく家庭や地域で学ぶことも試みることにありました。
2016年7月は初めての国政の18歳選挙権ですから、新聞やテレビなど多くのメディアが報道しました。予想できたことですが、その報道の多くは高校3年生がどのように選挙権を行使することや模擬選挙のようすが中心でした。このようなことでは一時的なブームが起きることはあっても18歳選挙権がしっかりと根付くことはできません。実際に現在18歳、19歳の投票率は低迷しています。そして、18歳選挙権の話題も各種選挙が実施される時でもほとんど出てきません。普段の授業において主権者教育が主張されることも一部を除いてほとんど聞こえなくなってしまったのではないでしょうか。
2022年度からは18歳成人が施行されます。18歳になれば成人です。これも日本の歴史上初めてのことです。大人としての意識や行動が求められると共に個人の権利を主張していくことができます。若い世代の政治意識や投票率の低下を止めるためにも、18歳選挙権を再考していきたい意向です。18歳成人と18歳選挙権をセットとした主権者教育の在り方や具体的なプランを提案できればと思います。
日本国憲法の前文の最初に「日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。」とあります。主権とはいくつかの意味がありますが、ここでは、国家の政治を最終的に決める権利とし、主権者教育とは主権者である国民が、世の中の出来事や政治について主体的に考え行動し、積極的に選挙へ関わる姿勢を身に付ける教育と捉ええることができます。特に10代の投票率の低下が懸念されます。2017年の第48回衆議院議員総選挙の投票率が40%だったものが、2019年の第25回参議院議員通常選挙では32%に低下してしまいました。2017年は前年に施行された18歳選挙権の影響がありましたが、2年後にはもうブームは過ぎ去ってしまったのでしょうか。
2022年度には18歳成人が施行されます。もう一度主権者教育の必要性を再考し、具体的に進める内容と方法を模索していきたいと思います。
文部科学省も2021年3月に『今後の主権者教育の推進に向けて (最終報告)』を出しました。
この報告では、「小学校・中学校での取組の充実」「家庭における取組の充実」「地域における取組の充実」「主権者教育の充実に向けたメディアリテラシーの育成」などは「小学生から高校生または大学生までを対象にすることです。そして、選挙の期間だけ投票のことを学ぶのではなく、日常時事問題や政治、選挙に関心をもち学ぶ姿勢を身につけさせたいということです。さらに、学校に限定することなく家庭や地域で学ぶことも試みることにありました。」という『やさしい主権者教育 18歳選挙権へのパスポート』の出版時の理念と同じものが含まれています。さらに、17頁の「家庭、地域における取組の充実」では「 子供たちの主権者としての意識を涵養するためには、人格形成の基礎が培われる幼少期からの取組が大切である。」と記されています。幼少期の定義はそれほど明確ではありませんが、幼稚園、保育園、こども園などに就園する時期から小学校低学年ごろでしょうか。私は現在幼小一貫教育において非認知能力(意欲、集中力、好奇心、忍耐力、コミュニケーション力などの能力の育成)が五感力を通してどのように教育できるかを実践しています。今後は主権者教育についても模索していきたい意向です。
主権者教育プログラム
1.主権者教育を実践するにあたって
主権者教育は小学校から始めましょう
新聞の読み方
ニュースの見方
学習材をどうするか
インターネットとどうつきあうか
家庭でどうとりくむか
2.選挙のための基礎知識
選挙で使われる用語
3.選挙通になるために
選挙運動
選挙運動でできること
選挙運動でできないこと
期日前投票
4.さらに考え行動しよう
世界の選挙権年齢
投票率
日本の選挙制度の歴史
選挙の街ウォッチング
投票所に行ってみよう
一票の格差
選挙の予定表
5.第26回参議院議員選挙を追いかけよう
初めての総選挙直前の自民党総裁選挙
第100代総理大臣の誕生と組閣
第49回衆議院議員選挙(総選挙)から学ぶ
第49回衆議院議員選挙結果から学ぶ